社員が見つけた“月50万円”の給与明細
「社長。ちょっと、いいですか」
金曜日の夕方、営業課長の河本さん(51)が社長・慎二さんのもとを訪れました。手にしていたのは、慎二さんの兄であり営業部長を務める慎一さん(48)の給与明細です。経理担当者が、社内書類を仕分けする際、誤って河本さんの書類に紛れ込ませてしまったのがきっかけでした。
そこに記されていた支給額は「500,000円」。河本さんは給与明細を慎二さんのデスクに置きました。
「社長……お兄さん、本当に月50万円もらってるんですか?」
慎二さんは言葉に詰まります。慎一さんがその月に出社したのはわずか4日ほどだったからです。
「営業部長なんだから、外に出ていることもある。それに昔からの取引先との付き合いもあるから」と慎二さんは説明しましたが、それだけで月50万円という金額の正当性を証明できないことは自分でも理解していました。
河本さんは納得のいかない表情でさらに尋ねます。
「じゃあ、俺たちのボーナスが減るのは、なぜですか?」
その年、会社は原材料費や人件費の上昇、受注減少に苦しんでいました。慎二さんはつい数日前、社員たちへ冬の賞与を半分程度にすると伝えたばかりだったのです。
現場の社員には我慢してもらう一方で、ほとんど会社に来ない兄には毎月50万円を払い続ける事態に、社員が納得できるはずもありません。
「河本。それは別の話だ」となだめようとしましたが、河本さんは失望を隠せない様子で言い残しました。
「俺、ここに25年いるんですよ。家族じゃない人間は、我慢すればいいってことですか」
先代である父の代から会社を支えてきた古株社員の言葉に、慎二さんはなにも言い返せませんでした。「家族経営なのだから多少の事情は仕方ない」と自分に言い聞かせていた慎二さんですが、長年見過ごしてきた“身内びいき”の代償は、月50万円にとどまりませんでした。
