老後計画の破綻
そんな生活が3年ほど続いたころ。退職時には1,000万円以上あった預金が、気付けばほとんどなくなっていました。預金残高が減っていることはわかっていたものの、いよいよ本格的に危機感を覚えはじめます。
年金収入だけでは毎月の生活費と旅行代を賄えず、足りない分は預金から補っていました。旅行の支払いにはクレジットカードを利用していたため、実際にいくら使ったのかを把握するのは、請求が届いてからという状態でした。しかし、旅行はすっかり生活の一部になっています。いまさら以前のような旅行に戻すことには、2人とも抵抗がありました。
そんなとき、大きな出費が発生します。自宅の屋根や外壁の傷みが進み、塗装工事などに約300万円が必要だとわかったのです。正彦さんは、以前相談したFPに連絡しました。
「預金がだいぶ減ってしまって……。運用しているお金を一部解約したいんですが」
ところが、運用資産の評価額も当初の想定とは異なっていました。2,000万円を投じた商品は早期解約の影響と、購入時より円高が進んだこともあり、円換算の評価額が約200万円目減りしている状態。
FPはいますぐに解約する場合の損失や、今後の生活費への影響を説明しました。また、商品には一定の範囲で契約者貸付を利用できる仕組みもありましたが、借入金には利息がかかり、将来の受取額にも影響するため、正彦さんは借入れを増やすことに抵抗があり、最終的に運用資産の一部を解約することにしました。
解約して手元に入った約1,000万円から、自宅の修繕費300万円と、クレジットカードの未払い分などを支払うと、残った現金は約600万円。運用資産の残りは約800万円。預金の残額を合わせても、3,000万円以上あった金融資産は大きく減っていたのです。
「まだお金はある。でも、このままじゃ、あと何年もつんだろう……」正彦さんは強い不安を覚えました。恵子さんも、次の旅行の話をしなくなりました。温泉巡りは、2人が長年楽しみにしてきた夢だったはずです。それなのに、いまでは旅行のパンフレットを見ても、真っ先に頭に浮かぶのは費用のことでした。
「行けば、またお金が減るものね……」
2人は、いつしか旅行そのものをためらうようになっていました。