問題は「タワマンを買ったこと」ではない
今回の田中さん夫婦の事例において、タワマンを買ったこと自体はさほど問題はなかったといえるでしょう。マンション価格の上昇によって現在の資産価値が購入当時より上がっており、売りに出せば2倍程度の価格で売れる見込みがあります。
タワマンを手離して引っ越せば、いまある3,000万円の金融資産に加え、売却益を含めて7,000万円ほどの手元資金を残せる試算です。住み替えたとしても、資金的には十分ゆとりのある生活を送ることができます。
本当の問題は、管理費や修繕積立金の値上げを含めた長期的なキャッシュフロー計画を立てずに購入してしまった点にあります。
2025年の総務省「家計調査」によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯における、1ヵ月の実収入は平均25万4,395円、可処分所得は22万1,544円です。これに対し、消費支出は26万3,979円となっています。
田中さんの場合、住宅ローンはあと8年間も毎月7万円程度の返済が残り、さらに毎月6万円の管理費・修繕積立金を負担していますので、仕事を引退したあとのキャッシュフローはかなり苦しいものになりました。
こうしたキャッシュフローを計算したうえで購入していれば、ランニングコストが上がったとしても焦らずに対応できたでしょう。
また、売却すれば大きな現金が得られる状態であるにもかかわらず、「買わなきゃよかった」と後悔しているわりに、「住み慣れた憧れのマンションを手放したくない」という感情に縛られ、選択肢を狭めている点も課題といえます。
冷静に自分たちの状況を数字で把握し、今後の家計をシミュレーションすることで手離す必要はないかもしれませんし、早々に現金化して引っ越したほうがよいという状況かもしれません。いずれにしても、それを判断するには数字で理解することが必要です。
考えが足りないまま購入してしまい、不安になってしまっているのでしたら、後悔の前に自分たちがどうしたいのか、そのためにどうしたらいいか、根拠のない不安ではなく数字と向き合って戦略を考えてみることが重要です。
持ち家に掛かる「買ったあとのお金」
タワーマンションに限らず、持ち家には「買ったあとのお金」がかかります。
戸建てであれば、屋根や外壁、給湯設備などの修繕費を自分で準備する必要があります。マンションであれば、それを管理費や修繕積立金などとして継続的に負担しますが、これらはなかなか購入時には見えにくいコストになっています。
住宅ローンを完済したからといって、住居費がゼロになるわけではありません。特に注意したいのが、現役時代には問題なく払えていた金額が、年金生活になると大きな負担になる可能性があることです。
田中さん夫婦の場合、タワマンを購入したことそのものが間違いだったわけではなく、むしろ資産が大きく増える結果になりました。大切なのは、現状を客観視しないまま「こんなはずじゃなかった」と後悔することではないでしょう。現在の収入、支出、資産、そしてこれから必要になるお金を一度数字にしてみて、冷静に先々の戦略を考えてみる視点が求められます。
小川 洋平
FP相談ねっと
ファイナンシャルプランナー
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