「もう部屋は解約したよ」増え続ける段ボールで知った娘の決断
ある日、また大きな段ボールが届きました。
「まだ前の部屋に荷物が残っているの?」
恵子さんが何気なく尋ねると、美香さんは答えました。
「これで最後かな。もう部屋も解約したし」
「解約したって……次の部屋は?」
「借りてないよ」
「じゃあ、いつまでここにいるの?」
美香さんは少し驚いた顔をしました。
「ここから出る予定はないけど」
恵子さんは言葉を失いました。
「半年くらいって言ってなかった?」
「最初はそう思ってたよ。でも、また家賃を払って2人で暮らすより、このほうがいいじゃない。私もお金を貯められるし、お父さんとお母さんだって孫と一緒にいられるし」
そして、美香さんはこう続けました。
「みんなにとって、このほうが楽だと思ってた」
「みんなって……私たちも?」
恵子さんは、これまで深く考えないようにしていた日々の負担を思い返しました。
夕食を4人分作ること。孫の帰宅時間に合わせて家にいること。洗濯物が増えたこと。休日でも家に誰かがいること。
半年だからと思えば受け入れられたことを、この先何年続けるのか。
夫婦には、夫婦なりの老後の予定もありました。和夫さんが元気なうちは旅行に出かけたい。75歳を過ぎたら車を手放すことも考えていました。戸建ての管理が負担になれば、将来的には家を売り、より小さな住まいへ移る話もしていました。
「娘と孫がずっとここに住むなら、家をどうするかという話まで変わってしまいます。そこまで考えて初めて、半年と何年も一緒に暮らすのは全然違うんだと思いました」
親子は改めて同居について話し合いました。
夫婦は「今すぐ出てほしい」とは言いませんでした。ただし、期限を決めないまま同居を続けることも受け入れられないと伝えました。
美香さんは当初、「今のままで何が問題なの?」と戸惑ったそうです。娘にとっては、生活費を入れ、自分も働いています。両親がそれほど負担に感じているとは考えていませんでした。
話し合いの結果、美香さんは孫の中学校生活が落ち着くまでを目安に、新しい住まいを探すことになりました。それまでの間も、夕食や家事の分担を見直すことにしました。
「一緒に暮らすことが嫌だったわけではありません。でも、『半年だけ』だからできることと、『これからずっと』できることは違いました」
恵子さんはいまも、孫と過ごせる時間を楽しんでいます。
家族との同居は、生活費を抑えられたり、家事や子育てを助け合えたりと、それぞれにメリットがあります。一方で、「しばらく」「落ち着くまで」といった曖昧な約束のまま始めると、時間がたつにつれて親子の認識にずれが生じることもあります。
いつまで暮らすのか、生活費や家事をどう分担するのか、将来どちらかの事情が変わったときはどうするのか。同居を始めるときだけでなく、暮らしが長期化したときにも、改めて話し合うことが大切です。家族であっても、それぞれの生活や将来の予定があることを前提にしておく必要があるでしょう。
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