夫と妻、それぞれの生活と「意外な展開」
離婚後、隼人さんは駅から徒歩10分ほどの賃貸アパートで一人暮らしを始めました。
「最初は、66歳で賃貸を借りられるのか、少し不安でした。仕事を辞めているので、収入は年金だけですから」
高齢者の賃貸契約では、年齢や収入などを理由に審査が厳しくなるケースがありますが、年金収入が安定していることに加え、預貯金などの資産を示すことで、入居を認めてもらえる場合もあります。隼人さんも、最終的には無事に新居を見つけることができました。
「引っ越してみたら、拍子抜けするくらい気楽。食事は好きなときに食べればいい。テレビの音量を気にする必要もない。何より、妻の機嫌をうかがわなくていい。それが一番大きかったですね」
長年暮らした自宅を離れ、ひとりになる寂しさはありました。年金や残りの資産を考えれば、決して贅沢はできない質素な暮らしです。しかし、それ以上に感じたのは、意外にも「すっきりした」という感覚だったのです。
夫婦という関係は終わったが…新しいつながりへ
離婚後も、手続きや子どものことなどで連絡を取り合うことがあった2人。ある日、「せっかくだから昼食でも食べていこうか」と早紀さんから声をかけられたといいます。すると、思いのほか話が弾みました。
「一緒に暮らしていたころは、あんなに話すことがなかったのに、皮肉ですよね。最近どうしているとか、体調はどうだとか。ちょっとしたトラブルを笑い合ったりね。離れて暮らしているからこそ、話せることもあるんだなと思いました」
早紀さんも同じようなことを言っていたといいます。
「『たまに会うくらいが、私たちにはちょうどいいのかもしれないね』と。別れたからといって、30年以上一緒にいた時間まで全部なくなるわけじゃないですから」
定年後に夫婦で過ごす時間が増えるからこそ、これまで見えなかった関係性に気づくことがあります。隼人さん夫妻にとって離婚は、30年以上続いた夫婦生活の「終わり」であると同時に、お互いが無理をせずに生きていくための、新たなスタートでもあったのです。
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