3年で減った約1,000万円
退職から3年ほど経ったある日、正明さんは複数の口座の残高を確認しました。きっかけは、恵美さんから「そろそろお風呂のリフォームも考えないとね」と言われたことでした。
費用を確認するため、久しぶりに資産全体を計算してみると、約5,600万円あった金融資産は4,600万円台まで減っていました。
「え、こんなに減ってるの?」
正明さんは通帳を見直しました。計算間違いではありません。3年間で、約1,000万円を取り崩していたのです。
「5,600万円から4,600万円になっただけなら、まだ十分あるようにも見えます。でも、このペースがあと10年続いたらどうなるんだろうと思ったんです」
正明さんは69歳です。
仮に今後も年間300万円ずつ資産を取り崩せば、10年間で3,000万円です。もちろん毎年同じ支出になるわけではありませんが、医療や介護、自宅の修繕など、これから新たに必要になるお金もあります。
さらに、物価も上昇しています。総務省『2025年平均 消費者物価指数』によると、総合指数は前年比3.2%上昇し、4年連続の上昇となりました。
夫婦は外食や旅行をすべてやめたわけではありません。まず決めたのは、年間の取り崩し額を把握することでした。
日常生活費とは別に、旅行や趣味に使う予算を年間120万円程度と設定。国内旅行は回数を減らす代わりに、行きたい場所には無理に節約せず出かけることにしました。ゴルフも月2回から月1回程度にしています。
「節約しなきゃ、というより、いくら使っているか知らなかったのが一番まずかったんですよね」
退職後に資産を取り崩すこと自体が問題なのではありません。総務省の家計調査でも、高齢無職夫婦世帯では可処分所得を消費支出が上回っています。
正明さん夫婦の場合も、貯蓄を一切減らさずに暮らすことを目標にはしていません。
変えたのは、「5,000万円以上あるから大丈夫」と残高だけを見るのではなく、1年間でいくら入ってきて、いくら出ていったのかを確認することでした。
外食も旅行も、今も夫婦の楽しみです。ただし今年は、旅行へ申し込む前に年間予算を確認します。
まとまった資産があっても、毎年の取り崩し額を把握していなければ、減り方に気づくのが遅れることがあります。老後資金を考えるうえでは、「いくら持っているか」と同時に、「今の暮らしを続けると毎年いくら減るのか」を把握しておくことも重要です。
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