退職翌日の朝、夫が妻に見せた「10年前からの計画」
「ちょっと見てほしいものがあるんだけど」
定年退職した翌朝、浩二さん(仮名・60歳)は妻の美紀さん(仮名・59歳)に一冊のノートを差し出しました。
浩二さんは大学卒業後、同じ会社に38年間勤務。前日には退職金約2,900万円が振り込まれていました。
夫婦には社会人の子どもが2人おり、すでに独立しています。自宅は20年ほど前に購入した戸建てで、住宅ローンはすでに完済。退職金とは別に夫婦で約2,000万円の預貯金があります。
美紀さんがノートを開くと、そこには地名と金額が細かく書き込まれていました。北海道、九州、沖縄。さらに、イタリア、スペイン、カナダ――。
「何これ?」
「退職したら行きたいと思ってたところ。10年くらい前から少しずつ書いてた」
浩二さんには、現役時代に諦めてきたことがありました。旅行です。
長期休暇を取ることが難しく、家族旅行も国内で2泊程度が中心でした。子どもが独立してから美紀さんに海外旅行を提案したこともありましたが、「定年したら時間はいくらでもあるから」と自分から先送りしたこともあります。
そして迎えた定年。浩二さんが妻に切り出した「お願い」は、今後5年間、退職金から毎年100万円程度を旅行に使わせてほしい、というものでした。
「5年で500万円?」
美紀さんは思わず聞き返しました。
「全部使い切るって意味じゃないよ。でも、元気なうちに行きたいところへ行きたい。定年まで待ってたんだから、そこは使わせてほしいんだ」
浩二さんにとっては、長年働いた後に実現するための計画でした。しかし美紀さんは同じようには考えていませんでした。
退職金が入ったら、今後の生活費や自宅の修繕、医療・介護などに備えて、できるだけ残しておく――それが美紀さんの考えていた使い道でした。
「私、退職金は老後のお金だと思ってた。500万円も旅行に使うなんて考えたことなかった」
そこで初めて浩二さんは、妻に具体的な計画を一度も話していなかったことに気づきました。
厚生労働省『令和5年就労条件総合調査』によると、勤続20年以上かつ45歳以上の定年退職者について、大学・大学院卒(管理・事務・技術職)の1人平均退職給付額は1,896万円でした。高校卒(管理・事務・技術職)は1,682万円、高校卒(現業職)は1,183万円となっています。なお、この調査の「退職給付額」には退職一時金だけでなく、退職年金の現価額も含まれる場合があります。
