(※写真はイメージです/PIXTA)

仕事を辞め、子どもも独立すると、それまで家族や会社の予定に合わせていた毎日が大きく変わることがあります。誰かのために動く時間が減る一方で、何をして過ごせばいいのか分からなくなる人もいます。高齢期の一人暮らしでは、生活のリズムをどう作るかが大切になることもあります。

「今日は何をするか」を自分で決める暮らしへ

転機になったのは、団地へ移ってから半年ほど経ったころです。ある朝、誠さんは近所の店でコーヒー豆を買いました。

 

特別な理由があったわけではありません。以前からコーヒーは好きでしたが、現役時代はインスタントかコンビニで済ませることがほとんどでした。

 

翌朝、豆を挽き、お湯を沸かして一杯だけ淹れてみました。

 

「誰かに出すわけでもないのに、ちゃんと淹れたんですよ。それが意外とよかったんです」

 

それから、毎朝コーヒーを淹れることが習慣になりました。

 

午前7時半ごろに起き、カーテンを開け、コーヒーを飲みながら新聞を読む。その後は近所を30分ほど歩きます。

 

曜日によって図書館へ行ったり、商店街まで買い物に出たりします。週に一度は、団地の集会所で行われている囲碁の集まりにも参加するようになりました。

 

毎週必ず出席するわけではありませんが、「水曜日は囲碁に行こうかな」と思えるだけで、一週間の流れが少し変わったといいます。

 

内閣府『令和7年版高齢社会白書』によると、65歳以上で直近1年間に何らかの社会活動に参加した人のうち、生きがいを「十分感じている」「多少感じている」と回答した人は84.6%でした。一方、いずれの活動にも参加しなかった人では61.7%となっています。

 

退職したばかりのころは、予定のない一日をどう過ごせばいいのか分からず、午前中を何となく家で過ごすことも珍しくありませんでした。今は、誰かとの約束がない日でも、「午前中に散歩する」「午後は図書館へ行く」と一つ予定を決めています。

 

「毎朝、自分のためだけにコーヒーを淹れています。昔なら、そんなことに時間を使うなんて考えなかったですね」

 

現役時代は、出勤時間に合わせて一日が始まりました。退職した今は、代わりにコーヒーや散歩、囲碁といった小さな習慣が一日の流れをつくっています。

 

退職によって自由な時間が増えても、何もしなければ充実するとは限りません。誠さんの場合は、毎日の過ごし方を少しずつ決めていくことで、退職直後には持て余していた時間が、自分のために使える時間へと変わっていきました。

 

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