誰も来ない土曜日、友人に電話をかけようとして…
翌朝、澄子さんはいつもの時間に目を覚ましました。
しかし、孫たちは来ません。昼食を多めに作る必要もなければ、部屋を片づける必要もありません。
「今日は何しようか」
信夫さんに聞かれましたが、すぐには思いつきませんでした。
テレビを見て、昼食を食べ、買い物へ行く。午後3時を過ぎたころには、長く感じていた土曜日がまだ終わらないことに気づきました。
そのとき思い出したのが、何度も誘ってくれていた友人たちです。スマートフォンの履歴をさかのぼると、「また今度ね」で終わっているやり取りがいくつも残っていました。
久しぶりに一人へ電話をかけようとしましたが、澄子さんは手を止めました。
「何度も断っておいて、急に暇になったから会おうっていうのも勝手かなと思ったんです」
その日の夜、澄子さんは信夫さんに、「私、孫が来なくなったら何をするか全然考えてなかった」と話しました。
孫との時間を後悔しているわけではありません。ただ、孫の予定を優先する生活を何年も続けるうちに、以前あった自分の予定が少しずつ減っていたのです。
内閣府『令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査』によると、60歳以上が今後優先的にお金を使いたいものとして、「趣味やレジャー(旅行等)の費用」を挙げた人は32.4%、「友人等との交際費」は20.2%でした。一方、「子や孫のための支出(学費、こづかい等)」も25.8%となっています。家族、自分の楽しみ、友人との付き合いのいずれも、高齢期の生活を構成するものといえます。
数日後、澄子さんは思い切って、以前ランチに誘ってくれた友人へ連絡しました。
「この前は行けなくてごめんね。また予定が合うとき誘ってもらえる?」
すると、「じゃあ来月どう?」とすぐに返事が来ました。
それから澄子さんは、孫が来るかもしれないという理由だけで週末を空けておくことをやめました。友人との予定が先に決まっていれば、その日は長男一家にも「出かけるから家にいないよ」と伝えます。
孫たちが遊びに来る回数は、以前より減りました。それでも月に何度かは一緒に食事をし、ときには澄子さんのほうから「今度いつ来る?」と誘っています。
家族の生活は、子どもの進学や仕事、孫の成長によって少しずつ変わります。祖父母がそれに合わせて時間の使い方を変えることもあるでしょう。しかし、家族の予定が変わったからといって、一度遠ざかった友人関係や趣味が自動的に戻ってくるわけではありません。
孫と過ごす時間を楽しみながら、自分自身の付き合いや予定も残しておく。どちらかだけを優先するのではなく、その時々で時間の使い方を選び直すことも、高齢期の暮らしには必要になります。
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