夫婦が守った自分たちの時間
住み替えて最初のころ、香織さんは週に何度も両親のマンションへ顔を出しました。
仕事帰りに総菜を届けたり、休日には孫を連れて遊びに来たりします。由紀子さんも、娘一家の夕食を作って持っていくことがありました。
ところが1ヵ月ほどすると、夫婦は少し疲れ始めました。せっかく別々に暮らしているのに、「近くにいるのだから会わなければ」という感覚が生まれていたのです。
ある土曜日、香織さんから「今日、みんなで行ってもいい?」と連絡がありました。その日は夫婦で映画を見に行く予定でした。
以前の由紀子さんなら予定を変更したかもしれません。しかし、「今日はお父さんと出かけるから、また今度ね」と返信すると、香織さんからは「了解、楽しんできて」と返ってきました。
「近くに住んだら、もっと娘の生活を手伝うことになると思っていたんです。でも、別にそうする必要はなかったんですよね」
もちろん、近居の良さを感じる場面もありました。
修さんが風邪をひいたときには香織さんが薬や食料を届けてくれました。反対に、香織さんが仕事で帰宅が遅くなった日には、由紀子さんが孫の夕食を用意したこともあります。
ただ、それを日常にはしないことにしました。
総務省『令和5年住宅・土地統計調査 住宅の構造等に関する集計』によると、65歳以上の世帯員がいる世帯のうち、一定のバリアフリー化がされた住宅に暮らす世帯は45.4%で、2018年から3.0ポイント上昇しています。高齢期の住まいでは家族との距離だけでなく、住宅そのものが今後の身体状況に対応しやすいかどうかも重要な要素になります。
夫婦が選んだマンションも、エレベーターがあり、室内には大きな段差がありません。戸建て時代に負担になり始めていた庭の手入れもなくなりました。
一方、タワーマンションだから高齢期に適しているとは限りません。毎月の管理費や修繕積立金が必要で、将来的に金額が上がる可能性もあります。物件によって設備や周辺環境も異なるため、購入価格だけで判断することはできません。
由紀子さん夫婦の場合、重視したのは「娘に世話をしてもらえる場所」ではなく、自分たちだけでも暮らしやすく、必要なときには家族と行き来できる場所でした。
「娘には娘の家庭がありますし、私たちにも私たちの生活があります。困ったときに行けるくらいの距離が、今はちょうどいいんです」
高齢になれば、親子の距離を縮めることが安心につながる場合があります。ただし、必ずしも同居を選ぶ必要はありません。近くに住みながら普段はそれぞれの生活を送り、必要なときだけ支え合う。家族との関係を長く保つためには、物理的な近さだけでなく、互いの暮らしに踏み込みすぎない距離を考えることも大切でしょう。
【関連記事】
■月20万円もらえるはずが…45歳・サラリーマン「ねんきん定期便」に抱いた違和感。「年金ルール」知らずにそのまま20年…65歳で受け取ることになる年金額に唖然「何かの間違いでは?」
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】
■親が「総額3,000万円」を子・孫の口座にこっそり貯金…家族も知らないのに「税務署」には“バレる”ワケ【税理士が解説】

