戸建てを手放して初めて分かった「広さより重要なもの」
入居先が確定してから、修一さんは戸建てを売りに出しました。
築30年でしたが、土地にも一定の価値があり、約2,200万円で売却。仲介手数料や引っ越し費用などを差し引いた残りは、老後の生活費や医療・介護への備えとして残しています。
新しい住まいは2DKです。
家賃は収入に応じて決まり、修一さんの場合は共益費を含めて月4万円台。以前の4LDKと比べればかなり狭くなりました。
総務省『令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計』によると、高齢者のいる世帯の81.6%は持ち家に住んでいます。一方、高齢単身世帯では32.2%が借家に居住しています。高齢期にも持ち家で暮らす人が多い一方、住まい方は一つではありません。
引っ越して最初に戸惑ったのは、収納でした。
戸建てでは「とりあえず置いておく」ことができた家具や道具も、2DKでは入りません。引っ越し前にかなり処分したつもりでしたが、それでも持ってきすぎたと感じました。
一方、暮らし始めてしばらくすると、狭くなったこと以上に楽になったことが目につくようになりました。
掃除は短時間で終わり、2階へ上がる必要もありません。庭がないため、夏の草取りを気にすることもなくなりました。
「雨が強い日に、屋根は大丈夫かなと思わなくなったのが意外と大きかったですね」
公営住宅では、建物の共用部分などを自分一人で維持する必要はありません。もちろん家賃や共益費はかかり、住戸内で入居者が負担する範囲もありますが、戸建てを所有していたころとは、住まいに対する心配の種類が変わりました。
息子からは当初、「せっかく家があるのにもったいない」と言われました。しかし、実際に新居へ来ると、
「一人ならこれで十分かもね」
と話したといいます。
修一さん自身も、団地暮らしを誰にでも勧めるつもりはありません。
希望する住宅に空きがなければ申し込めず、応募が多ければ抽選になります。建物によってはエレベーターがなかったり、買い物や通院に不便だったりする場合もあります。
それでも修一さんにとっては、広い家を所有し続けることより、毎月の住居費が見通しやすく、自分で管理しなければならない範囲が小さいことのほうが重要になっていました。
「戸建てに住んでいたころは、家があることが安心だと思っていました。でも一人になってからは、家を維持できるかどうかのほうが気になっていたんです」
高齢期の住み替えでは、持ち家か賃貸かだけでなく、修繕や掃除、階段、買い物や通院まで含めて考える必要があります。長年暮らした家を手放すことには迷いも伴いますが、現在の人数や体力に合わせて必要な住まいを考え直すことで、それまでとは違った安心を得られる場合もあります。
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