母が口にした本音…娘の後悔
ある日、恵さんが面会に行くと、和子さんがぽつりと話しました。
「みんな親切にしてくれるんだけど、ここでは私はお客さんみたい。近所のお友達にも会いたいし、庭の草取りでもいいから、自分で何かしたいの」
その言葉を聞き、恵さんは「安心」と「本人らしい暮らし」は必ずしも同じではないことに気づきます。
「母が一人で暮らしているのが心配で、施設に入れば私も安心できると思っていました。でも、それは母にとっての“幸せ”ではなかったんですよね」
母を自宅に戻せた「二つの幸運」
話し合った結果、和子さんは老人ホームを退去し、自宅へ戻ることになりました。施設に移ってから約1年。そう決断できた背景には、“二つの幸運”が重なっていました。
一つは、戻る家を残していたことです。
実は恵さんは、和子さんが施設での暮らしを気に入れば、誰も住まなくなる実家を売却し、その売却代金を今後の施設費に充てることも考えていました。しかし、入居後すぐに売却するのではなく、しばらく様子を見ることにしていたのです。
これが結果的に功を奏しました。
もう一つは、施設に払った入居一時金600万円です。
契約書を確認すると、この施設では入居一時金600万円を5年間で均等償却する契約になっていました。初期償却はなく、1年間で120万円、1か月あたり10万円ずつ償却される仕組みです。和子さんは入居から1年で退去することになったため、償却済みの120万円を差し引いた480万円が未償却分として返還されることになりました。
入居一時金には、契約時に一定額を初期償却するタイプもあります。初期償却の有無や償却期間、返還額の計算方法は施設によって異なるため、入居前に契約書や重要事項説明書で確認しておくことが重要です。
「もし先に家を売っていたら、母が戻りたいと言っても、こんなに簡単には戻せなかったと思います」
実家を残し、さらに入居一時金の未償却分も返還されたことで、和子さんは以前の暮らしに戻ることができました。自宅では家事代行サービスと見守りサービスを利用し、恵さんも毎週オンラインで顔を見ながら話すほか、月1回は帰省する生活に切り替えました。
この先も、ずっと一人暮らしが続けられるとは思っていません。和子さん自身、「本当に一人では無理になったら、そのときは施設に入る」と家族と約束しています。
今できることは自分で行い、必要になったときに支援を増やす。そんな暮らし方を選んだのです。
