「区分所有者全員の共有」に属する共用部分
Q
リフォームをする際に、共用部分である壁に穴をあけてしまった人がいる場合、管理組合はどのように対処することができるでしょうか。
A
原状回復を求めることができますので、当該区分所有者が任意で原状回復をしようとしない場合は、裁判手続をとって、穴を塞ぐように請求します。
区分所有法において、壁などは共用部分とされています。共用部分は、区分所有者全員の共有に属するものとされており(区分所有法11条)、区分所有者は、共用部分をその「用方」に従って使用することができるとされています(同法13条)。
ですので、リフォームをする際に、共用部分である壁に穴をあけることは基本的にはできないことになります。
ただし、多くのマンションの管理規約においては、リフォームをする際には事前に理事会の承認を得ることとされており、共用部分である壁に穴をあける工事についても、その承認を得ることで可能になることが一般的です(マンション標準管理規約17条4項参照。第2章Q1参照)。
区分所有者が無断で共用部分の壁に穴をあけたケース
それでは、区分所有者が、理事会に無断で共用部分である壁に穴をあけてしまった場合には、どうなるのでしょうか。
この場合、理事会としては、区分所有者に対して、区分所有法57条に基づき穴を埋めて原状回復せよとの請求をすることができます。
区分所有者から、穴が小さく、共用部分の強度には何ら影響を与えないことや、穴をあけてかなりの期間が経過していることなどを理由に、穴を埋めなくてもよいと争われることも少なくありませんが、そのような場合であっても、基本的には理事会は、穴を埋めるよう請求することができます。
たとえば、東京地裁平成3年3月8日判決は、バルコニー上の壁に配管等を通すための穴(ガス湯沸かし器バランス釜を取り付けるための穴)をあけたところ、それを戻す工事をするよう命じています。区分所有者は、穴が小さいものであることなどを理由に、原状回復請求は権利の濫用にあたると主張しましたが、判決は「共有部分の変更は、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議で決するものと定め」ており、「各区分所有者がたとえ建築の専門家であったとしても、それぞれ独自の判断により、悪影響を及ぼさないとの結論を下して、共有部分に変更を加えること自体、……有害となるおそれがある」として、穴を埋めるよう命じています。さらに、この判決では、無断で穴をあけたことにより管理組合が被った損害(弁護士費用)の賠償まで認めています。
壁に穴をあけられていることを認識した理事会としては、区分所有者に対して、穴を埋めることを請求し、これに応じない場合には裁判手続によりこれを求めることができると考えられます。