「瑕疵があること」を立証する責任は施主側に
Q
マンションのリフォーム中ですが、リフォーム業者が注文どおりの工事をしてくれず、仕上がりの出来も悪いため、工事の途中ですが契約を解除して、別の業者に頼みたいと思っています。その場合、業者に対して、損害賠償を請求することも可能でしょうか。
A
工事に瑕疵があるときは、瑕疵修補請求、損害賠償請求が可能で、その瑕疵が重大なときは、契約の解除もできます(民法634条、635条)。また、施主は、仕事が完成するまでは、いつでも損害を賠償して契約を解除することができます(同法641条)。
(1)瑕疵担保責任の追及
仕事の目的物に瑕疵があるときは、施主は、リフォーム業者に対して、相当の期間を定めて、その瑕疵の修補を請求することができます(民法634条1項)。瑕疵の修補に代えて、または、瑕疵修補とともに損害賠償の請求をすることもできます(同条2項)。瑕疵が重大で、契約の目的を達成できないときは、契約の解除をすることもできます(同法635条)。なお、瑕疵が、施主側の事情によって生じたものであるとき、すなわち、施主が提供した材料の性質や施主の指図によって瑕疵が生じた場合は、リフォーム業者が、それらが不適当であることを知りながら告げなかったときを除き、瑕疵担保責任を追及することができません。
瑕疵があるとは、完成された仕事が契約で定めた内容どおりでなく、使用価値または交換価値を減少させる欠点があるか、または、当事者があらかじめ定めた性質を欠くなど不完全な点を有することとされています(最高裁平成15年10月10日判決)。
一般に瑕疵があるかどうかは、①契約に違反しているか、②建築基準法令等に違反しているか、③一般的・標準的な技術基準に違反しているかで判断されます。「注文どおりに工事をしてくれない」というのが、契約書に明確に違反しているという意味であれば、当然に瑕疵があるといえます。
「仕上がりの出来も悪い」というのが、契約に定めた施工内容(材料、品質、性能等の仕様)と異なる場合や、リフォーム業者であれば、当然に要求される技術水準に達していない場合には、瑕疵があるといえます。
契約書(材料、品質、性能、品番等を記載した見積書、設計図面、仕様書等を含む)がないときや、材料や性能の特定がされていない場合には、瑕疵といえるかどうかが問題となります。単にイメージどおりではないということであれば、瑕疵と認められないことも多いでしょう。カタログを示して材料を決めた場合や、打合せのメモなどに、特定の仕様・方法で工事を注文したことがうかがわれる記載が残されているときは、契約違反の瑕疵があると認められる場合もあります。
「瑕疵」といえるかどうか微妙な場合に、うっかり、イメージどおりにするようにやり直し工事を注文すると、あとから、「追加工事」「変更工事」であるとして、追加料金を請求されることもあり得ますので、注意してください。
瑕疵があることを立証する責任は、施主側にあります。後々の紛争を防止するためにも、たとえば用いる材料であれば、色、素材、形状、品質、性能などの仕様やメーカー名、品番等まで特定した契約書や設計図面の作成をリフォーム業者に要求することが重要となります。
工事の内容に疑問があるときは、弁護士、建築士などの専門家に早めに相談してください。場合によっては、いったん工事を中止させてそれまでの工事を点検するなどの措置が必要となる場合もあります。
契約を解除すれば問題が解決するわけではない
(2)注文者解除権
仮に、仕事の目的物に瑕疵があると認められる場合であっても、契約の解除が認められるためには、その瑕疵が重大なため契約の目的を達成することができないことが必要です(民法635条本文)。瑕疵が重大かどうかは事情ごとに判断されますが、一般に、やり直し工事(瑕疵修補)が短期間に比較的容易にできる場合には、契約の解除までは認められないことになるでしょう。
瑕疵担保責任による解除とは別に、民法は、施主は、仕事が完成するまでの間であれば、いつでも契約を解除できると定めています(注文者の解除権。民法641条)。ただし、施主は、解除によってリフォーム業者に与えた損害(たとえば、工事を完成させると得られたであろう報酬など)の賠償義務があります。「気にいらない」などの理由で安易に解除をすると、業者から損害賠償請求をされることがありますので、注意してください。
(3)解除後の法律関係
債務不履行責任(書籍5章Q1参照)や瑕疵担保責任に基づく解除をした場合、支払済みの工事代金と瑕疵なく完成した部分の出来高報酬額の清算をすることになります。工事の瑕疵により損害が発生している場合は、施主からリフォーム業者に対する損害賠償も可能となります。途中で工事を引き継ぐリフォーム業者への支払いは、最初から工事を発注する場合に比べて割高になるのが普通でしょう。その差額分を損害として瑕疵工事をした業者に賠償請求できるかも問題となります。このように契約を解除すれば問題が解決するというわけでもなく、損害賠償額や出来高報酬額の算定をめぐって新たな争いに発展することもあります。早期に弁護士や建築士に相談することをお勧めします。
注文者解除の場合は、既払額と出来高による報酬請求の差額の清算にとどまらず、リフォーム業者から約定の報酬全額を損害賠償として請求されることがあるのは前述のとおりです。この場合は、途中解除により不要になった材料費や人件費等を差し引いてもなお業者に損害が発生しているのかどうかについて問題となります。話合いがうまくいかないときは、早期に弁護士、建築士などの専門家に相談してください。