お金だけではなかった「仕事を続ける理由」
和也さんは母の収入を知り、最初は安心しました。しかし同時に、別の疑問も浮かびました。
「79歳でそこまで働かなくてもいいんじゃない? 貯金もあるんでしょう」
久美子さんは、しばらく考えてから答えました。
「お金のためだけだったら、とっくに減らしていると思う。でも、生徒から答案が届くと、まだ私を必要としてくれる人がいるんだなと思うのよ」
夫を亡くしたころ、久美子さんは教室を閉めようと考えたこともありました。しかし、生徒や保護者から継続を頼まれ、仕事を続けるうちに生活のリズムも戻ってきたといいます。
現在は午前中に添削をし、夜間や日曜日には仕事を入れないと決めています。
「昔みたいに何時間も続けて教えるのは無理。目も疲れるから、答案も一日何枚までって決めています」
内閣府『令和7年版高齢社会白書』では、60歳以上に何歳ごろまで収入を伴う仕事をしたいか尋ねたところ、「75歳くらいまで」「80歳くらいまで」「働けるうちはいつまでも」を合わせると4割を超えています。また、年齢が高い層ほど、仕事選びでは体力的な負担が少ないことを重視する傾向も示されています。
和也さんはそれ以降、母に「もう仕事を辞めたら」と言うのをやめました。その代わり、帰省した際にはパソコンの設定を確認したり、重い教材を運んだりするようになったといいます。
久美子さんも、今のペースをいつまでも続けられるとは考えていません。80歳を一つの区切りに生徒を少しずつ減らし、体調を見ながら仕事量を調整していくつもりです。
「年金が少ないから働いている、というだけじゃないの。できる間は続けたいのよ」
高齢になっても働き続ける理由は、人それぞれです。生活費を補うためという人もいれば、仕事そのものにやりがいや生活の張りを感じている人もいます。一方で、年齢を重ねれば体力や健康状態も変化するため、無理なく続けられる働き方を考えることも欠かせません。収入だけでなく、本人が仕事をどう捉えているのかも含めて、高齢期の働き方を考える必要がありそうです。
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