遺言書が「無効」になるケースもある
遺言が無効になるケースは実際にあります。遺言者に判断能力がなかった場合や、詐欺や脅迫によって書かされた場合、あるいは法律で定められた形式を満たしていない場合などです。
ただし、ただし、今回の遺言は公正証書遺言でした。公正証書遺言は、公証人が本人と面談したうえで作成する公的な書類です。作成時に本人の意思と理解力を公証人が確認しているため、あとから無効を主張するには高いハードルがあります。
優二さんが「母は遺言作成時に認知症の症状があった」と主張しても、遺言作成時の診断記録や公証人の記録から、その時点では一定の判断能力があったと判断されれば、遺言が無効であるという主張は認められません。
優二さんは弁護士に相談しながら証拠を集めようとしましたが、遺言作成から母の死まで2年が経過しており、当時の状態を客観的に立証することは容易ではありませんでした。
遺産を多く受け取る側も、精神的なダメージを受ける
ここまで、次男である優二さんの主張を中心に見てきましたが、こうした対立のなかでは、長男である幸一さん側にも相当なダメージがあります。
幸一さんは「これは母が自分で決めたことだ」「15年間、妻と二人で支えてきたことを母は分かっていた」と主張しました。母の意思を守りたいという思いは本物でしたが、弁護士費用の負担や調停の長期化、そして弟との関係が決定的に壊れ、精神的にも経済的にも消耗していきました。
遺留分をめぐる交渉が話し合いでまとまらない場合は、家庭裁判所の調停へ移行します。しかし、多くの場合は調停でも折り合いがつかず、最終的に審判による解決を待つことになります。こうした手続きは1年以上かかることも珍しくなく、その間、兄弟の溝はますます深まっていきます。
