Ant Group事件で露呈した「中国政府 vs. ビッグテック」の衝突
TikTokが提起したのは、外国政府がアルゴリズムを通じて認知を操作しうるというリスクだった。一方、中国Ant Financial(現Ant Group:アントグループ)が示したのは、自国企業のアルゴリズムであっても、金融システムの安定を揺るがしうるというリスクである。
国家が介入したのは、企業経営そのものではなく、アルゴリズムが主権の核心に触れたからである。
国家とビッグテックの衝突は、中国でもはっきりと表れた。2020年10月末にAlibaba創業者のジャック・マーが規制当局を「老人クラブ」と批判した直後の11月初旬、史上最大となる予定だった新規株式公開(IPO)が突如中止された。
彼は表舞台から姿を消し、数年にわたる整風運動でAlibabaは独禁法違反で巨額制裁を受け、Ant Groupは金融持株会社化や消費者金融事業の再編を迫られた。中国Tencent(騰訊控股)を含む中国プラットフォーム全体にも、ゲーム、金融、データ、独禁法の各領域で規制圧力が及んだ。
この事件は、単なる規制強化として見るだけでは不十分である。Ant Financialの上場は中止された。直接的な理由は、当局が、Alipayの信用スコアリング(芝麻信用)と消費者金融(花唄・借唄)を、中国の金融システムの安定を揺るがしかねないシステミックリスクと判断したことにある。
Ant Groupは銀行免許を持たないまま事実上の融資業務を行い、Alipayを入口とする螞蟻花唄(Huabei)・借唄(Jiebei)などの消費者金融サービスでは、信用判定アルゴリズムが数億人の金融アクセスを決定していた。
中央銀行の金融政策が及ばない影の金融システムの出現は、党の経済統制権の根幹を脅かす。習近平政権は、一企業が政治権力に挑むことは許されないという統治原則の再確認として、これを処断した。
中国は「一度の規制」から「恒常的な見張り体制」へ
2023年以降、中国は常態化監管(恒常的な監督管理)へと転換している。2025 年2月に習近平主席がHuawei、Alibaba、Tencent、中国DeepSeek(深度求索)の経営者と会談したことは、2021年以降で初めての明確なリセットのシグナルと解釈された。
背景には経済減速と米国制裁の影響がある。イノベーション促進と党の情報空間管理のせめぎ合いは解消されていない。両立を図る新たな均衡点が模索される。中国ではトリレンマは企業が国家に完全従属する形で明確に決着した。だが支配の強度は経済環境に応じて戦術的に調整される。
