高層階の魅力を上回った、毎月の固定費と将来への不安
明子さんがつぶやいたのは、修繕積立金の再増額が議題に上がった管理組合の資料を見た日のことでした。
「このまま住み続けられないかもしれないね」
幸男さんはすぐには返事ができませんでした。生活費を切り詰めれば、今すぐ困るわけではありません。しかし年金収入が大きく増える見込みはなく、医療費や介護費がこれから増える可能性もあります。高層階の眺めは気に入っていても、毎月の固定費が老後資金を確実に削っていく現実は無視できませんでした。
さらに夫婦を悩ませたのは、暮らしやすさの問題でした。タワーマンションは防犯面では安心でしたが、エレベーターの待ち時間が長く、体調の悪い日には外出そのものが億劫になります。災害時に停電が起きた場合、高層階での生活にどこまで対応できるのかという不安もありました。便利さを求めて選んだ住まいが、年齢を重ねるにつれて次第に負担として感じられるようになっていたのです。
国土交通省の『マンション総合調査』では、マンション居住者の高齢化や建物の老朽化、修繕積立金の不足などが課題として示されています。マンションは戸建てに比べて管理を任せられる一方で、管理費や修繕積立金は住み続ける限り発生し、将来的に増額される可能性もあります。
夫婦は、娘を交えて今後の住まい方を話し合いました。売却して駅近の低層マンションや賃貸に移るのか、今の部屋に住み続けるなら支出をどこまで見直すのか。幸男さんは最初、「せっかく買ったのにもったいない」と渋りましたが、明子さんは静かに言いました。
「安心して暮らすために引っ越したんだから」
その言葉で、幸男さんも気持ちが変わりました。現在、夫婦は売却査定を取りながら、管理費や修繕積立金の負担が比較的軽い住まいへの住み替えを検討しています。
タワーマンションでの老後は、便利で快適な面があります。しかし、購入時の価格だけでなく、毎月の固定費、将来の修繕計画、災害時の生活、体力が落ちた後の動線まで考えておかなければ、理想の住まいが負担に変わることもあります。
老後の住まい選びで大切なのは、見栄えや資産価値だけではありません。10年後、20年後の自分たちが無理なく暮らせるか、住まいにかかるお金が生活の安心を損なわないかを見据えることが重要です。
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