4年後に出した結論…「自由だけでは満たされなかった」
久しぶりに東京を訪れたときのこと。かつての同僚たちと食事をした浩一さんは、自分でも意外な感情に気付きます。
新しいプロジェクトの話をする元同僚たちが、どこか生き生きして見えたのです。
もちろん、残業や人間関係の苦労もあるでしょう。それでも、自分の仕事が誰かの役に立ち、社会との接点を持っていることに充実感を感じている様子が伝わってきました。
帰宅後、浩一さんは妻に言いました。
「俺、仕事が嫌だったわけじゃなかったのかもしれない」
すると美和さんも苦笑しながら答えました。
「私も同じことを考えてた」
実は美和さんも、地域の図書館でボランティア活動を始めたことで生活に張り合いを感じるようになっていました。人と関わり、誰かの役に立つことが、思っていた以上に大切だと気づいたのです。
内閣府『令和7年版高齢社会白書』では、高齢者の社会参加や就労が生きがいや健康維持につながることが示されています。また、総務省『社会生活基本調査』でも、ボランティア活動や地域活動への参加が生活満足度と関連する傾向がみられます。
退職から4年後、浩一さんはある決断をしました。再就職です。
ただし、以前のようなフルタイム勤務ではありません。週3日の非常勤アドバイザーとして、中小企業の経営支援に携わる仕事でした。
収入を得る必要があったわけではありません。資産1億円は依然として大きく減っておらず、生活費にも困っていませんでした。
それでも働くことを選んだのは、お金以外の価値を求めたからです。
「FIREして分かったのは、私にとって本当に欲しかったのは自由そのものじゃなかったということです。時間を自分で選べることは大切ですが、同時に誰かと関わり、自分の役割を感じられることも必要でした」
現在の浩一さんは、仕事をしながら地方での生活も続けています。
完全なリタイアではなく、必要な分だけ働く。都会にも地方にも縛られず、自分たちに合う距離感を探る。そうした暮らし方に落ち着いたのです。
FIREは魅力的な選択肢です。しかし、資産額だけでは人生の満足度は決まりません。仕事から解放された先に何をしたいのか、誰と関わりたいのか。その答えまで考えておかなければ、自由なはずの生活が思いのほか退屈に感じられることもあります。
浩一さんが4年かけてたどり着いた結論は、シンプルでした。
「人生から仕事をなくしたかったわけじゃない。人生の主導権を取り戻したかったんです」
その気付きこそが、何あより価値のある収穫だったのかもしれません。
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