静まり返った食卓で…初めて理解した息子の立場
メールを読み終えた正夫さんは、しばらく画面を見つめたまま動けませんでした。隣で内容を読んだ恵子さんも言葉を失います。
「何か怒らせるようなことを言ったかしら」
「そんなつもりはなかったんだけどな……」
その日の夕食は静まり返っていました。普段ならテレビをつけながら他愛もない話をする夫婦でしたが、その日は味噌汁をすする音だけが部屋に響いていました。
正夫さんにとって、息子に頼ることは甘えではありませんでした。家族なのだから、困ったときには助け合うものだと思っていたのです。しかし、メールの一文は、その考えが必ずしも息子と共有されていなかったことを突きつけました。
数日後、健太さんから電話がありました。
「怒っているわけじゃないんだ」
そう切り出した健太さんは、これまで話してこなかった事情を打ち明けます。
住宅ローンはまだ15年以上残っていること。長女が私立大学への進学を希望していること。物価上昇によって家計の余裕がなくなっていること。そして、これまで両親を助けるために、ボーナスや貯蓄を取り崩して対応してきたこと。
「助けたくないわけじゃない。でも、このままだと自分たちの生活が立ち行かなくなる」
その言葉を聞きながら、正夫さんは初めて息子の立場を理解しました。
自分たちが頼んでいた金額は、その都度見れば数万円です。しかし、それが何年も積み重なれば大きな負担になります。息子は一度も断らなかったため、夫婦は深刻さに気付けませんでした。
電話を切ったあと、夫婦は改めて家計簿を開きました。
使っていないサービスを解約し、車を手放すことも検討しました。保険の内容も見直し、自治体の高齢者向け支援制度についても調べ始めました。
「私たち、自分たちのことしか見えていなかったのかもしれないね」
老後のお金の問題は、単なる家計の問題ではありません。親子関係や将来設計にも影響を及ぼします。だからこそ、困ってから助けを求めるのではなく、元気なうちからお互いの状況や支援の限界について話し合っておくことが大切です。
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