自由になったはずなのに…埋まらなかった空白
母が施設へ入居してから数ヵ月間、真理子さんは自由な時間を満喫しようとしました。休日に映画を見に行き、友人と食事をし、以前から興味のあった習い事も始めました。
しかし、不思議なことに心は晴れませんでした。
仕事から帰宅しても、母の部屋は静かなままです。夕食を作る量は半分になり、テレビの音も聞こえません。
長年続いた生活が突然変わったことで、真理子さんは戸惑いを覚えるようになりました。
「母の世話が負担だったはずなのに、何をしていいのか分からないんです」
そう語る真理子さんは、自分でもその感情をうまく説明できませんでした。
毎週のように施設へ面会に行くと、母は以前より穏やかな表情を見せるようになっていました。職員との会話を楽しみ、レクリエーションにも参加しています。
その姿を見て安心する一方で、「自分がいなくても大丈夫だったんだ」という寂しさも感じました。
家族介護では、介護する側が役割を失ったあとに喪失感を抱くことがあります。介護が終わればすべて解決するわけではなく、長年続けてきた生活や人間関係の変化に心が追いつかないこともあるのです。
真理子さんはその後、自治体の家族介護者向け交流会に参加するようになりました。そこで同じような経験をした人たちの話を聞き、自分だけではないと知ったといいます。
「母を嫌いだったわけでもないし、一緒に暮らすのが幸せだったわけでもない。どちらでもない感情だったんだと思います」
親との同居を終えることは、親を見捨てることではありません。むしろ、お互いが無理なく暮らせる距離を見つける選択になることもあります。
真理子さんにとって、母との暮らしを終えたことは終着点ではなく、自分自身の人生をもう一度見つめ直し、新たに歩み始めるための出発点だったのです。
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■親が「総額3,000万円」を子・孫の口座にこっそり貯金…家族も知らないのに「税務署」には“バレる”ワケ【税理士が解説】
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】
