「預金だけでは減っていく」と焦った70歳男性
孝夫さん(仮名・70歳)は、妻と二人で暮らしています。年金は夫婦で月26万円ほど、資産は預貯金を中心に約4,000万円ありました。住宅ローンは完済しており、生活に大きな不安はないように見えます。
それでも孝夫さんは、最近になって老後資金への不安を強めていました。食料品や光熱費が上がり、通帳の残高が少しずつ減っていくのを見るたびに、「このままで本当に足りるのか」と考えるようになったのです。
そんなとき、知人から投資の話を聞きました。
「預金だけではもったいないよ。いまは高配当株を持っているだけで配当が入るんだから」
孝夫さんは現役時代、投資とはほとんど無縁でした。株価の見方も、配当利回りの意味も詳しく分かっていません。ただ、「年金の足しになる」という言葉には強くひかれました。
最初は少額で始めるつもりでした。しかし、証券会社の口座を開き、インターネットで高配当株の記事を読むうちに気持ちは大きくなっていきます。有名企業の名前が並び、「配当利回り5%」という数字を見ると、銀行に置いておくよりずっと賢い選択に思えました。
「これなら毎年100万円近く入るかもしれない」
そう考えた孝夫さんは、資産4,000万円のうち2,000万円を複数の高配当株に投じました。妻は驚きました。
「いきなりそんなに買って大丈夫なの?」
「大きな会社ばかりだから大丈夫だろう。配当もあるし、長く持てばいいんだ」
孝夫さんはそう答えました。
購入から数ヵ月は順調でした。配当金も入り、孝夫さんは「もっと早く始めればよかった」とさえ思いました。ところが、保有していた株の一部で業績予想の下方修正が発表されます。当初は一時的なものだと考えていましたが、その後、減配も公表されました。
高配当を期待して購入した銘柄だっただけに、落胆は小さくありませんでした。さらに減配を嫌気した売りが広がり、株価も下落します。別の保有銘柄でも業績見通しの悪化が続き、評価額はじわじわ目減りしていきました。
1年後、証券口座を確認すると、2,000万円だった投資額は約1,740万円に減っていました。年間100万円近くを見込んでいた配当も、減配の影響で60万円程度に下がる見通しです。
「こんな歳で取り返せるわけがない……」
孝夫さんは画面を見つめたまま、そうつぶやきました。
総務省『家計調査(2025年)』によると、65歳以上の夫婦のみ無職世帯では、可処分所得約22.2万円に対し、消費支出は約26.4万円で、平均では毎月約4.2万円の不足が生じています。老後資金は、日々の不足を補う役割も担います。だからこそ、大きく減らしたときの心理的な衝撃は小さくありません。
