(※写真はイメージです/PIXTA)

海外旅行の費用負担がさらに重くなりそうだ。2026年7月から、日本を出国する際に課される「国際観光旅客税(出国税)」が1人あたり1,000円から3,000円へ引き上げられる。航空券代に含まれているため意識しにくいが、税額は一気に3倍となる。例えば家族4人で海外旅行に出かける場合、出国税の負担は合計1万2,000円。円安や燃油サーチャージの上昇に加え、新たなコスト増として家計への影響も無視できない。なぜ政府は出国税の引き上げに踏み切ったのか。その背景には、過去最高水準となったインバウンド需要と、観光立国を支える財源確保という課題があるようだ。※本連載は、THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班が担当する。

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知らないうちに支払っている「出国税」

出国税の正式名称は「国際観光旅客税」。2019年1月に導入された比較的新しい税金だ。日本から飛行機や船で出国する際、日本人・外国人を問わず一定額を負担する仕組みで、航空券や船券の料金に上乗せされる形で徴収されている。

 

導入当初の税額は1,000円だった。政府はその財源を活用し、顔認証ゲートの整備や多言語案内の充実、観光地の受け入れ環境整備などを進めてきた。

 

しかし、その後のインバウンド需要の急回復によって状況は大きく変わった。

訪日客4,000万人時代、観光立国の新たな課題

コロナ禍を経て、日本を訪れる外国人観光客は急速に回復した。政府は2030年までに訪日客6,000万人、旅行消費額15兆円という目標を掲げている。2025年の訪日客数は約4,270万人、旅行消費額は約9.5兆円となり、いずれも過去最高を更新した。

 

インバウンド需要の拡大は、日本経済にとって大きな追い風だ。訪日外国人による消費額は自動車輸出額に匹敵する規模に成長し、地域経済を支える重要な柱となっている。

 

その一方で、京都や大阪、東京などでは観光客の集中による混雑やマナー問題が深刻化している。公共交通機関の混雑や観光地周辺の生活環境への影響など、いわゆる「オーバーツーリズム」が各地で課題となっている。

 

観光客の増加は利益だけをもたらすわけではない。空港機能の強化、入国審査体制の整備、多言語対応、地方観光地の受け入れ環境整備など、新たなコストも発生する。

 

政府はこうした課題への対応を進めるため、出国税の引き上げを決めた。

出国税3倍で、税収は「年間1,300億円」規模へ

今回の税率引き上げによって、出国税は1人あたり1,000円から3,000円となる。

 

政府は2026年度の税収について、約1,300億円規模になると見込んでいる。従来の税収水準と比較すると大幅な増加だ。

 

増収分は、空港や港湾機能の強化、入国審査システムの高度化、地方観光地への誘客促進、多言語対応の整備、オーバーツーリズム対策などに充てられる予定である。

 

政府にとって出国税は、訪日観光客の増加に応じて税収も増える比較的安定した財源となる。観光立国政策を推進する上で重要な財源の一つと位置付けられている。

家族4人なら、負担は1万2,000円

一方で、旅行者への影響も小さくない。例えば夫婦と子ども2人の4人家族が海外旅行へ出かける場合、これまで4,000円だった出国税は、7月以降は1万2,000円となる。増加額は8,000円だ。

 

近年は円安や燃油サーチャージの上昇、海外の物価高などによって旅行費用そのものが大幅に上昇している。そこに出国税の引き上げが加わることで、家計への負担感はさらに増すことになる。

 

出国税は航空券代に含まれているため目立ちにくいが、家族旅行や海外出張の多い人ほど影響を受けやすい。

出国税だけではない…海外旅行を取り巻く負担増

もっとも、海外旅行者の負担増は出国税だけではない。2026年には中東情勢の緊迫化による原油価格上昇が懸念され、航空会社による燃油サーチャージの動向にも注目が集まった。海外渡航のコストを押し上げる要因は複数存在している。

 

国際課税研究所首席研究員の矢内一好氏は、「海外旅行のコスト上昇は出国税だけで語れない」と指摘する。

 

「航空運賃のサーチャージだけでなく、空港使用料や保安サービス料など、旅行者が負担する費用は数多く存在します」

 

例えば成田空港では、国際線出発時に旅客サービス施設使用料と保安サービス料を合わせて3,160円(第1・第2ターミナル)が徴収されている。第3ターミナルでも2,070円の負担がある。

 

羽田空港でも国際線利用者は旅客サービス施設使用料として2,570円を負担している。

 

これらの費用は航空券代金に含まれて徴収されるため意識されにくいが、実際には出国税と同様に利用者自身が負担している。

 

矢内氏はさらに、かつて日本でも議論された「国際連帯税」に注目する。

 

国際連帯税は、貧困対策や感染症対策、気候変動問題など国際社会が抱える課題解決のための財源を航空券などに上乗せして徴収する構想だ。

 

フランスではすでに航空券連帯税が導入されており、エコノミークラスで約500円、ビジネスクラスでは約5,000円程度が課されている。韓国でも類似の制度が導入されている。矢内氏は次のように指摘する。

 

「今後、国際的な財源確保の議論が進めば、日本でも再び検討対象となる可能性があります」

 

また、日本の空港利用料金についても見直しの余地があるという。

 

シンガポールのチャンギ国際空港の旅客サービス料は約1,300円程度とされる。一方、日本の主要空港ではそれを上回る負担となるケースも少なくない。

 

矢内氏は「訪日客や空港利用者が増えている現在、税だけでなく空港使用料なども含めた総合的な負担のあり方を検討する必要があるのではないか」とも指摘する。

なぜ外国人だけから徴収しないのか?

出国税をめぐっては、「インバウンド対策なら外国人だけに課税すればよいのではないか」という声もある。

 

実際、多くの国民にとって観光客向けの施策に見えるため、日本人も同じように負担することに違和感を覚える人は少なくない。

 

しかし現在の制度は、「日本から出国する人」を対象としており、日本人と外国人を区別していない。

 

国籍ごとに異なる課税を行う場合、徴収や管理が複雑になるだけでなく、国際的な制度との整合性も課題となる。

 

海外でも空港税や航空旅客税などは国籍を問わず徴収されるケースが一般的であり、日本も同様の考え方を採用している。

世界と比較すれば、突出して高額とは言えない

出国税が3,000円になると聞くと高く感じるかもしれない。しかし、海外に目を向けると、航空旅客税や観光関連税が日本より高い国は少なくない。

 

イギリスでは航空旅客税が導入されており、長距離路線では数千円から1万円を超える負担となることもある。欧州では環境対策を目的とした航空関連課税も広がっている。

 

その意味では、日本の出国税は引き上げ後も国際的に突出して高い水準とは言えない。

 

もっとも、旅行者にとって重要なのは各国との比較だけではない。円安や航空券価格の高騰が続くなかで、新たな負担が加わること自体が海外旅行への心理的なハードルを高める可能性がある。

観光立国としての成長コスト…一体誰が負担するのか?

出国税3倍は単なる値上げではない。その背景には、日本が観光立国として成長を続けるために必要なコストを誰が負担するのかという問題がある。

 

訪日客4,000万人時代を迎えた日本では、観光による経済効果と引き換えに、インフラ整備や混雑対策への投資が欠かせなくなっている。その費用を一般財源で賄うのか、観光客に求めるのか、それとも出国する日本人も含めて広く負担するのか――。

 

7月から始まる出国税の引き上げは、単なる旅行代金の上昇ではなく、「観光立国の請求書を誰が支払うのか」という問いを私たちに投げかけていると言えそうだ。
 

 

THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班

 

 

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