昇進を祝う会が凍りついた若手社員の“一言”
数日後、奈々さんの執行役員就任を祝う会が開かれました。会場は会社近くの居酒屋。村上社長も上機嫌です。
「奈々なら大丈夫だよ。みんなを引っ張っていってくれ」
表面上はなごやかな雰囲気でしたが、酒が進むにつれ、ある若手の男性社員が口を滑らせました。
「奈々さん、次は専務ですか? いやあ、社長と結婚すると出世できるんですね! いいなあ、俺も女だったらなぁ」
一瞬、笑いが起きましたが、その笑いはすぐに消えました。奈々さんの表情が固まったからです。村上社長が「そういう言い方はよくないだろ」とたしなめると、誰かが小さく呟きました。
「でも、そう見えるよな……」
奈々さんはこのときはじめて、自分が実力で昇進した人ではなく、「社長の妻」という理由で不自然に昇進した人としてみられていることに気づきました。
創業メンバーの退職が呼び水となり、離職者が続出
歓迎会の一件以来、奈々さんは社内の空気が変わったことを感じていました。 以前なら気軽に話しかけてくれた同僚たちも、どこか距離を置くようになったのです。
そんなある日、中島部長が退職するという話を耳にしました。社内の重要人物だっただけに、奈々さんは驚きを隠せません。廊下で出会った中島部長を呼び止め、奈々さんは思わず聞きました。
「……中島さん、辞めてしまうんですか」
中島さんは苦笑いをして答えました。
「うん……いろいろ、思うところがあってね。ここは誰かが頑張ってきた20年と、誰かの結婚が、同じ土俵で比較される会社なのよ」
翌月、中島さんの退職をきっかけに、中堅社員が2人、若手の営業が1人と、退職が相次ぎました。村上社長はそのたびに「たまたまだよ」「最近は転職なんて珍しくないからな」と口にしますが、人事責任者が抱える退職面談の資料には、同じ言葉が並んでいました。
『評価が公平だと思えない』

