エリート会社員の自負と、突然訪れた「日常の終わり」
地方都市の一戸建てで暮らす須藤清さん(仮名・71歳)は、かつて中堅企業の営業幹部として活躍。現役時代のピーク時には年収1,200万円を超えていました。
自分が家族を養っているという強い自負があり、家事や家計管理のいっさいを専業主婦の妻・佳代子さん(享年69歳)に丸投げしていました。口座管理や光熱費の支払いはすべて「妻の仕事」。定年後も妻が須藤さんの年金を含めて、すべてをやりくりしていました。
しかし、そんな平穏はある冬の朝、佳代子さんが「胸が苦しい……」とリビングの床に崩れ落ちたことで一変します。病名は「大動脈解離」。病院に到着したときにはすでに心肺停止状態でした。
突然の別れに呆然としながらも、娘(39歳)の手を借りて約120万円の「家族葬」の手配を済ませた須藤さん。ところが、葬儀後に銀行へ向かった須藤さんはATMの前で立ち尽くします。
「自分の口座なのに、暗証番号がわからない……」
適当に番号を入力して口座をロックさせてしまった須藤さん。窓口で手続きをして解除されたものの、記帳して驚きました。須藤さんの口座には、直近2ヶ月分の年金(約48万円)しか残っていなかったのです。
妻の佳代子さんは、毎月の年金が振り込まれるたび、生活費の決済や貯蓄のために自分名義の「家用口座」へ大半を移し替えていたのでした。
これが、さらなる問題を引き起こします。銀行に妻の死亡を伝えた瞬間、その「家用口座」が完全に凍結されてしまったのです。たとえ原資が夫の稼ぎであっても、名義が妻である以上、正式な相続手続きを終えるまでは1円も引き出せません。
結局、120万円の家族葬の費用は娘が一時的に立て替えることになり、須藤さんは自分の口座の残高で生活をすることになりました。
「まさか、娘に金を借りることになるなんて……情けなくてたまりませんでしたよ」
しかし、須藤さんが直面する“まさかの事態”は、ここからが本番でした。

