オバマケアの撤廃、TPP阻止・・・
こうしたなかで産経新聞は異色だった。
「トランプ大統領で、いいじゃないか」と編集局長の乾正人氏が大胆な発言に続けて、こう言う。
「いよいよ米軍が撤退する、となれば、(中略)その際は自前の空母保有も選択肢となり、内需拡大も期待できる。沖縄の基地問題だって解決に向かうかもしれない」
また同紙三面には古森義久氏が「保守の怒り、国内外で変革の波」として、「草の根保守勢力が民主党リベラル派のオバマ政権と後継のクリントン氏の政治姿勢に対する強烈な否定を広めたことを意味し」云々と、トランプ勝利の第一義的意議がオバマ政治の否定であることを鮮明に指摘している。
同日、偶然に筆者はテレビ特番で古森氏と同席する機会があったが、おなじことを繰り返された。
そうだ。トランプの勝利はオバマ政治への全否定なのである。
彼はオバマが目玉としたオバマケアを止め、TPPを阻止し、パリ協定から離脱し、さらにはオバマ政権が成立させた「ドッド・フランク法」(消費者保護法)も廃案に持ち込むと公言してきたのだから。
かくして事前の世論調査を完全に覆してなぜトランプが勝ったかという点で、意外な側面を分析したのは読売新聞だった。
つまり世論調査の対象が固定電話にアンケート対象が限られていたのに、現実には携帯電話しか持っていない人が43%もあり、「1970年代には世論調査に応じる人の割合が八割近かった」のだが、いまや「8%にまで下落しており、調査として信頼できるサンプル数が確保できていない」。
全体の民意を世論調査がくみ上げることができなかったからだというのはある意味で正鵠(せいこく)を得ている。
ついでに各紙に出た「識者」「学者」「エコノミスト」らのコメントを読んだが、これらは大雑把に眺めても的外れな解釈が山のように羅列されていた。気がついたのは左翼、リベラル、体制保守のコメンテイターばかりが紙面に登場している点で、やはり日本のマスコミには進歩がなく包容力もないことだった。
対策を後回しにされた「プアホワイト」の鬱積も影響
「ホワイトギルド」とは、白人の贖罪意識を意味する。ピューリタンが大西洋を渡り、新大陸にやってきてインディアンら原住民を虐殺し、黒人を奴隷として大量にこき使い、アジア系移民も強制労働のように働かせ、日系人を収容所に隔離した。
まさに人種偏見、人種差別に対して70年代後半からフェミニズム運動とともに、「アファーマティブ・アクション」という動きが始まり、逆に黒人や少数民族を優遇するという政治的逆差別を生んだ。
この流れはオーストラリア、カナダにも伝播して、インディアンやアボリジニへの生活保護、コミュニティへの補助、雇用促進などが行われた。米国では雇用の10%以上を黒人ならびに少数民族から雇用することが強要された。結果、プアホワイトが各地に大量に発生しても、彼らへの対策は後回しにされたため不満が鬱積していた。
つまり人前では人種差別的な発言ができない。だからトランプを支持するとは言えない。しかしホワイトギルドが過剰と考えているアメリカ人が多数潜在した事実にメディアも進歩派、リベラルの学者もジャーナリズムも無頓着だった。
「ポリティカル・コレクトネス」の行き過ぎに潜在的不満が巨大なマグマのように膨らんで爆発寸前になっていることにも認識が不足していた。