外務省の「情報収集能力」には致命的欠陥がある!?
「悪夢」「衝撃」という語彙が頻出し、「異端」「大衆迎合」「怪物」「絶望」「危険な『保護主義』」などというタームが次々に多用された。トランプが大逆転を演じた大統領選挙結果を報じた日本の五大紙を読み比べてみたが、的外れな分析が目立った。
「予想を覆したから衝撃だった」というのも、各社はヒラリー・クリントンが勝つと明確な根拠もなく見込んで予定原稿を安直に用意していたからだ。
あるテレビ局はヒラリー会場から中継しながら(そこでは勝利集会が開かれる予定だった)、その横で記者が予定草稿を書き直している始末だった。つまり普通の報道準備段階では当然用意されるべき、別のシナリオ、トランプ勝利の予定草稿はなかったのである。日本の外務省高官は直前にも「接戦ですらない」と吐き捨てていたという。
外務省が国連総会出席(16年9月)の安倍首相とクリントンとの会談しか設定しなかったのも、外務省と在米大使館の無作為の象徴である。つまり日本政府はトランプを最後まで泡沫候補と見下し、無視していたことになる。
それにしてもBREXIT(英国のEU離脱)のときも直前まで外務省は「離脱はない」と首相に進言していた。これで二回連続の大失敗。外務省の情報収集能力に致命的欠陥があるのではないか。
ネタニヤフ(イスラエル首相)は、訪米時にちゃんと二人に会った。とくにネタニヤフとトランプは相性が合う。理由はふたりとも「敵は左翼ジャーナリズム」という、本質を知っているからだ。そのうえ左翼ジャーナリズムとの戦い方のコツも心得ている。むしろメディアを逆に有利に使うことに長けている。その遣り方が不思議なほどに共通している。
グローバリズムの信奉者の代表格は「日本経済新聞」で、こう書いた。
「米国民は過激な異端児に核兵器のボタンを預け、経済と政治の変革を託した」(11月10日一面トップ、「トランプショック」コラム)。
異端というのはグローバリズムから見ればそうでも、ナショナリストから見れば、グローバリズムそのものが異端であることには触れていない。グローバリズムを鼓吹し、その失敗が現れたという結果に同紙は無関心である。TPP反対を唱えたトランプの勝利はグローバリズムの破綻が始まったことを意味するのだから。
金融や貿易でのグローバリズムは国境をなくし、もしくは国境の壁を低くして、取引への規制を徹底的に緩和し、最終的には国家をなくせというアナーキズムに近い考え方であり、伝統的な文化、習俗習慣を重んじるナショナリズムを敵視する。日本でいわれる新自由主義はその亜流でしかない。
グローバリズムの行き過ぎが破綻を招いたと分析できず
読売新聞は「大衆迎合は大国導けぬ」と書いた。トランプが大衆迎合と断じているあたりはやや皮相な分析であろう。
「選挙で選ばれる公職か軍幹部のいずれの経験もない『アウトサイダー』が大統領選に勝利するのは米国史上初めて」。読売は続けて「こんなに怒りや不満を抱え、『疎外』されていた人が多かったのか、と驚くばかり」と素直に書いた。
軍歴こそないがトランプは少年時代に悪ガキであったため、徹底的に体罰をもってしごかれる軍事アカデミーに十三歳から五年間放り込まれている。スパルタ教育を受けてきた経歴は軽視できないのではないか。すでに七十歳とはいえ、トランプは190センチの長身で押し出しの良さを見ていると肉体的衰えを感じさせない。一歳下のヒラリーには時折、老女の印象を抱いた。
朝日新聞は「未知数」「不透明感」の語彙を多用しつつ「女性蔑視の発言などから、『資質』を問われてきた。政治経験もないうえ、外交政策に精通した側近も現状では見当たらない」。そのうえ共和党内の不協和音が残り、「同党主流派との対立が深刻で政権運営がスムースにいくかは不透明」だと批判のオクターブをあげた。
そうした懸念には及ばない。共和党ならびに共和党系シンクタンクには人材が山のようにあり、自薦他薦組が政権引き継ぎチームに殺到した。
毎日新聞は「拡散する大衆迎合」「強まる『エリートvs庶民』」と解説する一方で、「反既成政治世界のうねり」と世界同時発生的な反グローバリズムの流れに一言言及している。ただしナショナリズムへの回帰を単に「グローバリズムへの反動」と短絡的に総括しているあたりは浅薄な分析である。
それもこれも、グローバリズムの行き過ぎが破綻したという現実を正面から捉えていないゆえに独善的でもある。