常識的な範囲なら個人から法人への無利息貸付も可能
所有型法人では、賃貸物件を法人に売却しますが、ここでもうまみがあります。法人は物件を第三者に賃貸して、そこから家賃収入を得ることになります。法人はその収入を使って、父親から購入した建物代金を分割で支払うと同時に、役員に給料を支払っていきます。これで、どういうことが起こるかでしょうか?
まず、法人が役員に給料を支払うことで、給与分が経費となり、所得が減って法人税が下がります。それと同時に、給与の支払いによって父親の相続財産になる予定だった収益は、贈与税が生じることなく親族へ分散されていきます。
しかも、法人は無利息での分割払いがOKです。建物代金を15年とか20年とかの長期にわたる分割払いにすることもできます。銀行などで借り入れすると利子がつきますが、身内での取引なので、税務上、何の支障も生じません。第三者間の売買ならまずないことです。
1億〜2億円くらいまでの常識的な範囲でなら、個人が法人に無利息で貸し付けても税務署が目くじらを立てることはありません。筆者も今までやってきた中で、100件中99件程度の割合で無利息にしていましたが、全く問題ありませんでした。残りの1件程度は、諸事情により、わざと利息をつけたというものです。
ただ、あまりに巨額なものはNGです。過去に個人が3400億円を法人に無利息で貸し付けた「平和事件」といわれる裁判では、納税者側が敗訴しています。繰り返しますが何事もやりすぎはよくないということを心にとめておいてください。
さて、ここまで説明して、所有型法人のうまみがわかっていただけましたでしょうか。ベースはここにすべて集約されています。あとは、その過程の中で、どういうやり方をしていくべきか、また何に気を付けるべきかが重要なポイントとなります。
「帳簿価格」で売却する理由とは?
所有型法人では法人に賃貸物件を売却することになりますが、その手続き上で、税金が発生してしまう危険性があります。
ここでいう税金とは譲渡所得税のことです。これは、不動産を売却することで得られる利益にかかる税金で、一般的には「譲渡税」といわれています。たとえば、8000万円で購入した不動産が最近になって近辺の都市開発が進んで相場価格が上がり、1億円で売れたとします。差額の2000万円は利益になるので譲渡税がかかってしまいます。逆にいえば、8000万円で買ったものをそれ以下の価格で売れば譲渡税はかかりません。
この時、「親族間の売買だと、相場とかけ離れた金額は税務署に文句をいわれるのでは」と心配される方がいらっしゃいますが、譲渡税がかからないようにする方法はあります。
そのポイントは、法人に建物を売る時の金額の設定です。税務上は「時価」を売却金額としますが、時価にもいろいろと考え方があります。たとえば次のようなものです。
●固定資産税の評価額
●建築した時の価格(取得価格)
●不動産鑑定に基づく評価額(相場価格)
●帳簿価格(未償却残高)
つまり、この中から、最も金額を低く設定できる時価を選べばよいのです。所有型法人では4つ目の「帳簿価格」で建物を売却します。帳簿価格というのは、取得価格から減価償却された分を差し引いた未償却の部分の価格です。
たとえば、税務上、車は6年で償却することになっています。償却方法が定額法であれば、240万円で買った車は毎年40万円ずつ減価償却されて、6年でゼロ円の価値になるという考え方です。買って1年後の車の帳簿価格は、200万円ということになります。減価償却された40万円は経費として所得から差し引くことができます。車でもパソコンでも机でも、業務に用いる対象物を何年で償却するかという耐用年数は、税法で1つひとつ決められています。建物もしかり。
この帳簿価格で売却すれば毎年確実に価格が下がっていくため、物件が建てた時より高くなるということは絶対に起こりません。すなわち、いつ売却しようが売却利益がでないので譲渡税はかからないことになります。
しかも、帳簿価格というのは税務署が決めた減価償却のルールに基づいて計算しているため、この価格に基づく売買価格に税務署は文句のつけようがないのです。税務署から異議の起こる余地がない点で、帳簿価格は最も安全で確実な「時価」といえます。