(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢期の孤独は、必ずしも一人暮らしだけで生まれるものではありません。家族がいても、関係が途切れていれば、日々の寂しさは深くなります。とくに親子関係は、長い時間の積み重ねで成り立つものです。親にとっては「会いたいだけ」でも、子ども側には距離を置く理由がある場合もあります。

「少し距離を置きたい」…連絡が途絶えたワケ

子どもの頃から、邦夫さんは厳しい父でした。

 

進路、就職、結婚相手。美咲さんが何かを決めるたび、邦夫さんは「お前のためだ」と言いながら強く口を出しました。

 

結婚後も、電話で夫の収入や住まいについて尋ね、孫の教育方針にも意見を言いました。

 

美咲さんは何度も伝えたといいます。

 

「少し距離を置きたい」

「私の家庭のことは、私たちで決めたい」

 

しかし邦夫さんには、その言葉の重さがわかっていませんでした。

 

「親なんだから心配するのは当然だろ」

 

そう思っていたのです。

 

決定的だったのは、孫の進学をめぐる口論でした。邦夫さんはよかれと思って助言したつもりでしたが、美咲さんには、それがまた“支配”のように感じられたようです。

 

それ以来、連絡は途絶えました。

 

邦夫さんにとっては突然の断絶でした。しかし美咲さんにとっては、長年の積み重ねの末の選択だったのです。

 

父の日の夜、邦夫さんは、娘へ手紙を書くことにしました。最初は「なぜ連絡をくれないんだ」と書きかけました。

 

しかし、途中で手が止まります。妻が生前、何度か言っていた言葉を思い出したのです。

 

「あなたは心配しているつもりでも、相手には押しつけに聞こえることがあるのよ」

 

邦夫さんは便箋を新しくし、短くこう書きました。

 

「今まで、口を出しすぎたのかもしれない。すぐに会えなくてもいい。ただ、元気でいてくれたらと思っています」

 

手紙を出したからといって、すぐに関係が戻るわけではありません。それでも邦夫さんにとっては、「会いたい」と訴えるだけではなく、娘が距離を置いた理由に向き合う最初の一歩でした。

 

親子であっても、関係は自動的に続くものではありません。支援した記憶と、干渉された記憶。心配したつもりの言葉と、傷ついた側の受け止め方。そのずれが積み重なると、ある日、電話はつながらなくなります。

 

父の日、ただ一本の電話も鳴らなかったこと。その静けさの中で邦夫さんは、娘に会えない本当の理由をようやく考え始めたのです。

 

 

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