「少し距離を置きたい」…連絡が途絶えたワケ
子どもの頃から、邦夫さんは厳しい父でした。
進路、就職、結婚相手。美咲さんが何かを決めるたび、邦夫さんは「お前のためだ」と言いながら強く口を出しました。
結婚後も、電話で夫の収入や住まいについて尋ね、孫の教育方針にも意見を言いました。
美咲さんは何度も伝えたといいます。
「少し距離を置きたい」
「私の家庭のことは、私たちで決めたい」
しかし邦夫さんには、その言葉の重さがわかっていませんでした。
「親なんだから心配するのは当然だろ」
そう思っていたのです。
決定的だったのは、孫の進学をめぐる口論でした。邦夫さんはよかれと思って助言したつもりでしたが、美咲さんには、それがまた“支配”のように感じられたようです。
それ以来、連絡は途絶えました。
邦夫さんにとっては突然の断絶でした。しかし美咲さんにとっては、長年の積み重ねの末の選択だったのです。
父の日の夜、邦夫さんは、娘へ手紙を書くことにしました。最初は「なぜ連絡をくれないんだ」と書きかけました。
しかし、途中で手が止まります。妻が生前、何度か言っていた言葉を思い出したのです。
「あなたは心配しているつもりでも、相手には押しつけに聞こえることがあるのよ」
邦夫さんは便箋を新しくし、短くこう書きました。
「今まで、口を出しすぎたのかもしれない。すぐに会えなくてもいい。ただ、元気でいてくれたらと思っています」
手紙を出したからといって、すぐに関係が戻るわけではありません。それでも邦夫さんにとっては、「会いたい」と訴えるだけではなく、娘が距離を置いた理由に向き合う最初の一歩でした。
親子であっても、関係は自動的に続くものではありません。支援した記憶と、干渉された記憶。心配したつもりの言葉と、傷ついた側の受け止め方。そのずれが積み重なると、ある日、電話はつながらなくなります。
父の日、ただ一本の電話も鳴らなかったこと。その静けさの中で邦夫さんは、娘に会えない本当の理由をようやく考え始めたのです。
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