敗者のゲーム[原著第8版]

著:チャールズ・エリス
訳:鹿毛雄二+鹿毛房子/日本経済新聞出版
投資は、「ミスが少ないほう」が勝つ
『敗者のゲーム』というタイトルを初めて見たとき、強烈な違和感を覚える人も多いと思います。しかし、このタイトルこそが本書の核心です。
著者のチャールズ・エリス氏は、テニスを例に説明しています。プロ同士の試合では、勝敗を分けるのはスーパーショットです。お互いミスが少ないため、「どれだけ優れたプレーをできるか」が重要になります。これは“勝者のゲーム”です。
一方、アマチュア同士の試合では事情が違います。自滅による失点が多く、「ミスを減らしたほう」が勝ちやすい。こちらが“敗者のゲーム”です。
著者は、現代の株式市場も後者に近い構造になっていると述べています。
プロの機関投資家たちが膨大な情報をもとに売買を行う現在、個人投資家が継続的に市場平均を上回るのは極めて難しい。だからこそ、無理に勝とうとするより、「余計な失敗を避けること」が重要になるのです。
インデックス投資は「諦め」ではない
本書で繰り返し語られるのが、インデックス投資の合理性です。
市場には、世界中のプロ投資家が参加しています。企業分析、金利、為替、地政学リスク――あらゆる情報が価格に織り込まれていくなかで、個人投資家が常に“割安銘柄”を探し当てるのは簡単ではありません。その結果、多くのアクティブ運用者でさえ、市場平均を長期で上回れないという現実があります。
だからこそ著者は、市場全体に低コストで投資するインデックスファンドを軸に、長期で保有する戦略を推奨しています。これは「努力を放棄する」という話ではありません。むしろ、「勝てる確率が高い方法を選ぶ」という極めて合理的な考え方です。
なぜ著者は高齢でも株式中心なのか
本書のなかで興味深かったのが、著者自身の資産配分に関する考え方です。一般的には、「年齢が上がるほど債券比率を高めるべき」という考え方があります。しかし著者は、高齢になっても株式中心の運用を続けています。
その理由として挙げているのが、インフレへの耐性です。債券は価格変動が比較的小さい一方で、インフレ局面では実質価値が目減りしやすい側面があります。一方、株式は短期的な変動こそ大きいものの、長期ではインフレに対応しやすい資産とされています。
さらに著者は、「資産運用は自分一代で終わるものではない」とも述べています。子どもや孫へ資産を引き継ぐのであれば、運用期間はさらに長くなるため、長期成長が期待できる株式を重視する考え方です。
また、年金や持ち家など、すでに安定資産を持っている場合、それ自体が“債券的役割”を果たしているという視点も紹介されています。
投資家が陥りやすい「失敗パターン」
本書では、人間の心理的弱点についても詳しく触れられています。相場が好調なときほど人は強気になり、高値圏で投資額を増やしやすくなります。一方、暴落時には不安から売却してしまう。つまり、「高く買って、安く売る」という行動を繰り返しやすいのです。
これは個人投資家だけでなく、プロの運用機関でも見られる現象だと本書では指摘されています。
第8版では、こうした心理面について行動経済学の視点も取り入れられており、「人はなぜ合理的に行動できないのか」というテーマまで掘り下げられています。
長期投資で本当に重要なこと
『敗者のゲーム』を読んで改めて感じるのは、投資において重要なのは「才能」よりも「継続力」だということです。
市場予測を繰り返したり、短期売買で利益を狙ったりするよりも、長期で市場に居続けるほうが結果的に合理的である――。本書は、その事実をさまざまなデータや事例を通じて教えてくれます。
投資を始めた人はもちろん、すでに投資経験がある人にとっても、一度は読んでおきたい名著だと思います。
タザキ
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