(※写真はイメージです/PIXTA)

一人暮らしをしている高齢の親に、「何かあったらすぐ連絡して」と伝える子ども世代。しかし実際には、親の側が遠慮して不調や困りごとを隠してしまうことも少なくありません。特に認知機能の低下や体力の衰えは、日常のなかで少しずつ進むため、離れて暮らす家族が異変に気づきにくい問題です。

「迷惑をかけたくなかった」…82歳母が隠していた生活の限界

翌朝、雅彦さんは実家の中を改めて確認しました。

 

台所の引き出しには未開封の薬がいくつもあり、飲み忘れが続いていたことが分かりました。財布にはレシートが詰め込まれ、同じ店で同じ日に何度も買い物をした記録も残っていました。

 

「母さん、最近ご飯はちゃんと食べてた?」

 

節子さんは少し困った顔をして答えました。

 

「食べてたと思うんだけど……よく分からないの」

 

その言葉に、雅彦さんは背筋が冷たくなったといいます。

 

厚生労働省『認知症施策推進総合戦略(2024年度)』によると、2025年には認知症高齢者が約700万人に達すると見込まれており、高齢者本人だけでなく家族や地域での支援体制が重要とされています。

 

節子さんも後日、医療機関を受診し、軽度認知障害の可能性を指摘されました。すぐに施設入居が必要な状態ではありませんでしたが、一人暮らしを続けるには見守りや生活支援が必要だと説明されました。

 

雅彦さんは、強い後悔を感じました。

 

「もっと早く気づけたはずなのに」

 

しかし、節子さんはずっと「大丈夫」と言い続けていました。

 

「迷惑かけたくなかったのよ」

 

その一言に、雅彦さんは責める言葉を飲み込みました。

 

その後、地域包括支援センターに相談し、配食サービス、服薬確認、見守り訪問を導入。冷蔵庫の中身を定期的に確認し、買い物も週に一度は一緒に行くようにしました。

 

「一人で暮らしたい」という母の希望をすぐに否定するのではなく、どこまで支援を入れれば安全に暮らせるかを探ることにしたのです。

 

「助けてほしいの」…深夜の電話は、節子さんが初めて発したSOSでした。

 

家の中に積まれた段ボールや期限切れの食品は、母が一人で抱え込んできた不安と、少しずつ崩れていた暮らしのサインだったのです。

 

離れて暮らす親の「大丈夫」は、必ずしも本当に大丈夫という意味ではありません。雅彦さんはいま、その言葉の奥にある変化を見逃さないようにしています。

 

 

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