「見捨てるわけではない」…親子関係を守るための別居
真理さんが「このままではいけない」と強く感じたのは、転職を考え始めた頃でした。新しい職場に移れば、勤務時間や生活リズムも変わります。真理さんは母に相談しました。
「しばらく忙しくなるかもしれない」
すると和子さんは、ため息交じりに言いました。
「私のことはどうするの?」
その一言で、真理さんは言葉に詰まりました。
「母の人生を背負うために、自分の人生を止めているような気がしたんです」
もちろん、和子さんを大切に思う気持ちはありました。けれど、親子であっても、生活のすべてを共有し続けることが正解とは限りません。
内閣府『令和7年版高齢社会白書』では、65歳以上の一人暮らしの人は増加しており、令和2年時点で男性15.0%、女性22.1%、令和32年には男性26.1%、女性29.3%に達すると見込まれています。高齢期の暮らし方は多様化しており、家族と同居することだけが唯一の選択肢ではありません。
真理さんは、地域包括支援センターに相談しました。母の年金で借りられる高齢者向け住宅、見守りサービス、訪問介護、配食サービス。利用できる制度を一つずつ確認していくうちに、「離れて暮らしても支えられる」と思えるようになりました。
ある夜、真理さんは母に切り出しました。
「このまま一緒に暮らすのは、私には少し苦しい」
和子さんは驚き、しばらく黙っていました。
「私が邪魔になったの?」
その言葉に、真理さんは涙が出そうになりました。
「違う。嫌いになったわけじゃない。だからこそ、このまま一緒にいて、お互いを嫌いになりたくないの」
話し合いは簡単ではありませんでした。それでも数ヵ月かけて、和子さんは近隣の高齢者向け住宅へ移ることになりました。真理さんは週に数回顔を出し、通院や買い物は必要に応じて手伝っています。
別居後、和子さんは最初こそ寂しがりましたが、同じ住宅の入居者と話す機会も増えていきます。
「今日は隣の人とお茶を飲んだの」
その報告を聞いたとき、真理さんは少しだけ肩の力が抜けたといいます。
親と距離を置くことは、冷たい選択に見えるかもしれません。しかし、同居を続けることで子ども側が追い詰められ、親子関係そのものが壊れてしまうこともあります。
「離れたら、母に優しくできる時間が増えました」
同居をやめたことは、母を見捨てることではありませんでした。親子であり続けるために、必要な距離を取り戻す選択だったのです。
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