前回は、荘厳な「キリスト教建築」の思い出について触れました。今回は、引き続きモン・サンミッシェルでの思い出を紹介します。

波乱万丈なイエスの生涯

まず、ただの人間イエスがいる。彼についてほぼ確実なことは、BC七年頃砂漠辺境のナザレで生まれた。

 

父親は大工のヨセフで母親はマリア。兄弟がいて、自分も大工だった。地元のユダヤ教会に通い、旧約聖書をよく勉強した。パリサイ派の勉強法で、モーセの律法を学んだと思われる。結婚もしていただろうが、よくわかっていない。

 

三十歳前にナザレを出て、洗礼者ヨハネの教団に加わった。その後、何人かを連れて教団を離れ、独自の活動を始めた。ガリラヤ地方や、パレスチナの各地を訪れて説教をし、預言者のように行動した。

 

あちこちでパリサイ派やサドカイ派とトラブルを起こした。三十七歳頃エルサレムに行き、逮捕され裁判を受け、死刑になった。(以上、橋爪大三郎氏の文献より)

仏教とキリスト教の違いを考察

イエスが語った教えの内容は最初は「悔い改めよ。裁きの日は近づいた」というものであった。イエスはユダヤ人で一生ユダヤ教徒だった。イエスなら当然キリスト教徒だろうとの錯覚があるが、とんでもないことで、実はイエスがキリスト(救世主)と呼ばれたのは一世紀も後である。

 

イエスの教えを地方語のヘブライ語から、当時広く使われていたギリシャ語に訳し、救世主の出現と言って新宗教布教に成功したのはAD六〇年頃のパウロである。

 

従って「裁きの日」というユダヤ教(旧約聖書)独自の終末論を説いたイエスは、当然ユダヤ教徒である。ただ彼は独自の教えとして「右の頬を打たれたら。左の頬を出せ」とか、「上着を盗られたら、下着も与えよ」とか巧妙な譬えを作った。

 

しかし「汝の敵を愛せ」などは旧約聖書をそのまま使っている。総合的に比べると、キリスト教にはドグマがあるが、仏教にはドグマはなく、ブッダの言葉がお経として残っているだけである。

 

仏教とキリスト教を比べると、人間はブッダになれるが、キリストには絶対なれないという差がある。なぜならキリストは、パウロの決意で「神の子」として布教されたからで、パウロなしでは、人間は神やキリストになれないというわけだ。

 

仏教哲学としては、宇宙は縁起で動き人間・生物は輪廻転生するという。

 

キリスト教哲学は、神の天地創造から最後の審判への垂直の上昇線だ。最強の教えは予定説で、天国に行ける人は最初から神に選ばれているという不平等な説だが、この説で頑張って、現代文明はほとんどキリスト教に支配されている。

 

しかし最近、旧約聖書のエリコの戦いで神エホバが「異教徒を皆殺しにせよ」という失言があると注目されて、キリスト教はシラケている模様。新約の最大の特徴で納得させられる「原罪」の概念については、紙面が足らないので後の機会とする。

 

まことに宗教は論ずるものでも戦うものでもなく「信ずる」か「悟る」ものだ。

 

モン・サンミッシェルの本土に戻り名物のオムレツを賞味して、パリへの三六〇キロメートルの長いバス帰路につく。疲れもあり、旅行会社は音楽をもっと流して欲しかった。曲は幾多あるはずだ。シャンソンもよし、クラシックならサティ、ドビュッシー、プーランクなど。

 

パリに近づくとケスタ地形で石灰が多い。パリは世界一美しい都市だが唯一の欠点は水道水に石灰の害があることだ。これも最近改善された。

 

(二〇一三年(平成二十五年)七月記)

21世紀の驚くべき海外旅行

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藤間 敏雄

幻冬舎メディアコンサルティング

旅行する前に知っておきたい世界各国の歴史や政治状況を実際に各国へ訪れた著者が記す。 ロシアなら独自のインフラやモスクワの風格、 スペインは内戦の傷跡や王の気質を、 アメリカのドラッグ問題… 各国の宗教・伝統…

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