60歳で退職から1年、平日朝スーツで向かう場所
朝8時。喫茶店へ向かう吉田孝一さん(仮名・61歳)は、1年前に会社を去った今も、現役時代と同じスーツを脱げずにいます。
「家にはいられないんです。妻の視線が痛くてね……」
かつては中堅商社の管理職。しかし、60歳の節目で突きつけられたのは、畑違いの部署への実質的な“左遷”人事でした。
人望の薄さを突き付けられたような屈辱に耐えかね、吉田さんは65歳までの再雇用を断りました。「こんな会社、こっちから願い下げだ」と、退職という道を選んだのです。
しかし、その決断がもたらした経済的・精神的なダメージは、想像以上でした。
吉田さんの59歳時の年収は約900万円。もし異動を受け入れ、年収500万円程度で働けば、5年間で2,500万円を稼げたはずでした。会社員であれば折半される厚生年金や健康保険も、無職になれば全額自己負担に。
退職金と節約で築いた3,500万円の資産がありましたが、生活費や住宅ローン、社会保険料や税金、外出費もかさみます。いきなり生活水準を下げることも難しく、妻のパート代月14万円だけでは赤字は埋まりません。
失業保険の期間が終わると、前年の収入をベースにした納付書が次々と届くように。1年間で、実に400万円ほどが残高から消えたといいます。
「再就職をしたい。でも、知らない場所で、新しいことを覚えて、若い上司の下で働かなくてはならない。しかも、収入も驚くほど低い。……ネガティブな気持ちが出てしまうのか、面接を受けても通りません」
最近では、就職活動も疎かになっています。しかし、妻には「就活中だから」といえるように、そして知人に無職だと悟られるのを恐れて、平日はスーツを着て、電車に乗り、喫茶店へ出向く。そんな日々を繰り返しているのです。
「妻に『行くところもないのに、毎日スーツ着る必要ある?』と言われたこともありますよ。こうなるなら、どんな異動でも受け入れて辞めなければよかった……そう思っています」

