「少し増えればいい」…老後直前に始めた投資がもたらした変化
東京都内に住む鈴木さん(仮名・64歳)。定年を目前に控え、年金見込み額は月約23万円。退職金を含めた金融資産は約3,200万円でした。
「数字だけ見れば、何とかなるとは思っていました。でも、“余裕がある”とは言えない」
総務省『家計調査(2025年)』によると、65歳以上の夫婦のみ無職世帯では、可処分所得が月約22万1,544円に対し、消費支出は約26万3,979円と赤字構造が一般的です。つまり、年金だけでは生活費を賄えず、貯蓄の取り崩しが前提となるケースが多いのです。
「このままだと、いずれ減っていくだけ。少しでも増やせれば安心できると思いました」
そう考えた鈴木さんは、投資を始める決意をします。きっかけは、インターネットの記事と知人の話でした。
「最近は投資をやっている人が多いし、長期で持てば大丈夫だという話も聞いていました」
最初は、投資信託を毎月数万円積み立てるところからスタートしました。いわゆる“王道”の始め方です。しかし、相場が上昇した局面で、鈴木さんの意識は変わっていきます。
「思ったより簡単に増えるな、と感じてしまったんです」
数ヵ月で評価額が増えたことで、「もう少し資金を入れれば、さらに効率よく増やせるのではないか」という考えが浮かびました。
やがて、まとまった資金を一度に投じるようになります。さらに、個別株やテーマ型ファンドにも手を広げていきました。
「“少し増えればいい”という気持ちだったはずなんですが、いつの間にか“もっと増やしたい”に変わっていました」
転機は、ある銘柄への“追加投資”でした。
一度利益が出たことで自信を持った鈴木さんは、「今のうちに資金を増やせば効率よく運用できる」と考え、徐々に投資額を増やしていきます。
そして最終的には、まとまった金額を一つの銘柄に集中させました。しかし、その直後から価格は思うように伸びず、徐々に下落していきました。
「最初は一時的なものだと思っていました。でも、下がり続けて…」
含み損が拡大する中で、鈴木さんは冷静さを失っていきます。
「ここで売ったら損が確定する。戻るまで待とうと思いました」
