「すごいよな。もう俺いらないじゃん」
絵里さんの昇進が決まった翌日のこと。 絵里さんは、小さなケーキを買って帰りました。家族でささやかに祝えたらと思ったのです。
しかし、ソファに座ったままの洋介さんは、テレビから目を離さずこう言いました。
「すごいよな。もう俺いらないじゃん」
冗談のようでいて、顔はまったく笑っていませんでした。その後、以前はよくしていた仕事の話をしなくなり、夕食時も無言が増えました。
絵里さんは気づいたといいます。問題は収入そのものではなく、夫婦の“前提”が崩れたことだったのではないかと。
2人は対等なパートナーだと思っていました。けれど、その土台のどこかに、洋介さん自身も意識していなかった感覚が潜んでいたのかもしれません。
「夫のほうが妻より上」
「自分が家計を引っ張る側」
そんな無意識の役割意識です。 普段は表面化しなくても、夫の収入が高いうちは問題になりません。しかし転職失敗や昇進などで立場が逆転したとき、その価値観が一気にあらわになったのです。

