「使う時期」を考えていなかった…老後資金を揺るがした判断
工藤さんが後悔することになったのは、運用そのものではなく、「老後資金を使う時期」と「リスクの取り方」を十分に考えていなかったことでした。
「若い人の資産形成と、自分のような70歳前後の運用は違うんだと、あとから気づきました」
相場が下がり、NISA口座の評価額が大きく減った時期がありました。長期で持ち続ければ回復を待てる可能性はあります。しかし、工藤さんの場合、生活費の不足分を取り崩す必要がありました。
「下がっているときに売りたくない。でも、生活費は必要なんです。そこで初めて、これは老後資金なんだと実感しました」
さらに、iDeCoについても悩みが生じました。受け取り方によって税金や社会保険料への影響が変わる可能性があり、年金として受け取るのか、一時金として受け取るのか、判断が難しかったのです。
「制度のメリットばかり見ていて、出口のことをほとんど考えていませんでした」
ある日、工藤さんは同年代の知人と話していました。
「増やすことより、減らし方を考えたほうがいい年齢なんじゃないか」
そう掛けられた一言が、強く残ったといいます。
「本当にその通りでした。私は“老後資金を増やす”ことばかり考えて、“いつ、どれだけ使うか”を考えていなかったんです」
その後、工藤さんは運用額を見直しました。生活費として数年以内に使う可能性があるお金は預金に戻し、投資に回すのは当面使わない範囲に限定しました。iDeCoの受け取り方についても、税理士や金融機関に相談しながら慎重に検討することにしたといいます。
「NISAやiDeCoが悪いわけではありません。ただ、自分の年齢や生活に合わせて使わないといけなかった。それを分からないまま始めたことを後悔しています」
大きく何かを一気に失ったわけではありません。すぐに生活が破綻したわけでもありません。それでも、工藤さんは「あのとき立ち止まるべきだった」と振り返ります。
制度を使うことと、老後資金を守ることは同じではありません。
「本当に後悔しています。でも、今からでも整理し直すしかありません」
老後の運用では、増やす力だけでなく、必要なときに使える形で残しておくことも大切です。工藤さんは今、ようやくその前提から資産の置き方を考え直しています。
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