そして起きた「想定外」
しかし、問題は譲渡後に起きた。買い手企業側は当初「連帯保証を外す方向で調整する」と説明していたが、
●金融機関の理解が得られない
●一定期間様子を見る必要がある
●借り換えすれば連帯保証は外れる
など、さまざまな理由を付けて、個人保証解除の話を先送りしたのである。
田辺社長は不安を募らせたが、
(買い手を刺激してヘソを曲げられるのも面倒だ。連帯保証はいずれ外れるのだろう)
と思い、様子を見るしかなかった。
「会社から資金が抜かれていく!」
その間、買収側企業は会社の総務に次々に指示を出し、
●資金の引き出し
●法人クレジットカードでの不要(に見える)な高額飲食費の決済
を繰り返した。
元からギリギリだった会社の資金繰りは、譲渡後に急速に悪化した。
ついには従業員の給料も遅延するようになり、主要なドライバーから抜けていき、売上も落ちていった。
そして最終的に、会社は倒産した。
連帯保証の現実
倒産後、取引金融機関から田辺社長に連絡が入る。
「連帯保証を履行してください」
田辺社長は言葉を失った。
「そんな! まったく話が違うじゃないか!!」
仲介会社に仲裁を迫ったが、返事はあっても具体的な動きは見られない。
肝心の譲渡契約上約束された連帯保証は外されることなく、残ったままだった。
結果として田辺社長は、自宅を含めた個人資産を手放すことになった。
会社を手放して引退したはずが、人生そのものを失う結果になってしまったのである。
問題はどこにあったのか
このケースで重要なのは、特定の仲介会社を批判することではない。
問題は、「何を前提に意思決定したのか」である。
田辺社長は「価格(1円)」ではなく、「連帯保証が外れること」を前提に意思決定した。しかし、その前提は確定事項ではなかったのである。
中小企業M&Aで見落とされがちなポイント
中小企業のM&Aでは、
●価格
●スキーム
に目が行きがちだが、実務上は金融機関対応(特に保証)が極めて重要になる。
●保証は本当に外れるのか
●いつ外れるのか
●外れない場合どうなるのか
この部分を取引金融機関も巻き込んで検討しないと、田辺社長のような結果になるリスクがある。
「条件」を詰めることの重要性
M&Aは「いくらで売れるか」ではなく、「どの条件で引き継ぐか」が本質だ。とくに
●連帯保証
●退職条件
●従業員の処遇
といった部分は、契約レベルでは不十分で、実務レベルまで詰める必要がある。
まとめ…田辺社長のケース、実は「氷山の一角」
本件の田辺社長のケースは、実は氷山の一角である。会社を売却したはずなのに、契約で約束した連帯保証は外れない、という場合が散見される。
M&Aは会社の終わりではなく、次の世代に経営をバトンタッチする重要な意思決定である。だからこそ、「安さ」「スピード」「大丈夫そう、という直感」だけで判断してはいけない。
その判断の前提が本当に確実なものなのか、確認した上で進めることが、何より重要である。
その意味で、M&Aに知見のあるコンサルタントや中小企業診断士、公的な立場の事業承継引継ぎ支援センターや顧問税理士など、利害から少し距離のある専門家に相談することも、リスクを回避する1つの方法かもしれない。
都 鍾洵
税理士
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