ただの“ゴミ”に見えたから
それは、押し入れの奥にあった、古びた大きめの段ボール箱が2箱。中には、浩二さんが昔集めていたレコードやCD、本や漫画などのコレクション、ノートや雑貨など。さまざまな物が詰め込まれていました。
「こんなもの取っておいてどうするの? 聴いていない、読んでいない、使っていないものばかり」
和枝さんには、ただの“ゴミ”にしか見えませんでした。カビ臭く、場所も取る。そもそも夫がこの段ボールを開いている様子もなく、存在すら忘れているだろう。迷う理由は何もない――そう判断しました。
そして、先ほどの場面。「お前、まさか捨てたのか?」一瞬なんのことかわかりませんでした。
「押し入れにしまっていた、俺の段ボールだよ。色々入っていただろう」
「ああ、捨てたわ。ゴミかと思って。だって、どうせ使わないでしょ」
沈黙。そして次の瞬間、怒声が飛びました。
「なんで勝手に捨てるんだ!」
夫婦の信頼が一気に崩れた瞬間
穏やかな浩二さんが、声を荒げるのは珍しいことでした。自分自身が生きてきた思い出として残しておいたもの。捨てるかどうか判断するのは浩二さん自身の役割であり、和枝さんにその権利はない。自分が同じことをされたらどう思うんだ――。
浩二さんに言うことも、もっともです。浩二さんにとっては、“自分の過去そのもの”だったのでしょう。怒りは収まりませんでした。
それからというもの、家の中の空気は一変しました。会話は減り、食卓もどこかよそよそしい。
「……もしかして、本やレコード以外に、すごく大切なものが入っていたのかしら。仕分けはしたけど、細かく見てなかった。捨てなければ確認できたのに」
