不動産業者なら誰もが見られる「レインズ」の物件情報
(前回の続きです)
B社はAさんと契約したら、通称「レインズ」(REINS)と呼ばれる「不動産指定流通機構」に、その情報を登録しなければなりません。これは不動産取引の透明性や適正化を実現するために、法律で定められた手続きです。
レインズに登録された物件情報は、登録している不動産業者なら誰もが見られますから、顧客の要望に合った物件があれば照会し、それで購入の商談が始まる可能性があります。
順調に進んで契約に至れば、「めでたし、めでたし」。
ところが、それを「よかった」とは捉えない体質が、不動産仲介業界にはあるのです。なぜなら、「片手」では儲けが少ない。「専任媒介契約」を取った以上、「両手」とも手に入れたい。すなわち、「双方代理」になりたい――それが業者の本音だからです。上司は当然、部下(営業マン)にそれを求めます。
「片手じゃダメだ、両手を取れ!」
そのために、いろいろな画策が始まります。
ここでも読者は、疑問を感じるでしょう。レインズに登録するのだから、他社の顧客が買いたいと言ってきたら、拒むことはできないでしょう?それをどうやって、自分のお客さんにしてしまうのですか?――と。
それが、まったく違うのです。彼らが画策する基本的な手法こそが、最近やっと問題視されるようになった「囲い込み」と呼ばれるものなのです。
【図表1】
売主が知る由もない仲介業者のウソ
Aさんの例に沿って、話を進めましょう。
Aさんの物件をレインズで見たC社が、「これは自分の顧客Dさんが買いたい物件にピッタリだ」と思い、B社に連絡をしました。
「レインズで見たのですが、あの物件はまだありますか?」
もちろん、まだ売れていません。登録したばかりで、営業もこれからです。Aさんはそんな電話があったことを知る由もありませんが、Aさんにとっては願ってもない反応が早速きたというわけです。
読者の多くは、ここでAさんお気に入りの「爽やかで気に入った」B社の営業マンが、「ありがとうございます。まだ売れていませんよ。ぜひ、お客様にご紹介ください!」と、C社相手に盛り上がると想像しているのではないでしょうか。
ところが、B社の営業マンはAさんに見せる顔とは全然違う表情でこう答えます。
「すみません、その物件はもう予約が入りまして、ご紹介できません」
そう言われたら、C社は引き下がるしかありません。
なぜB社は、C社に対してそんなウソをつくのでしょうか?
業者は「3%」ではなく「6%」の仲介料を懐に入れたい
実際には予約もなければ、引き合いもありません。これをAさんが知ったら、何と言うでしょう。
「せっかくのお客さんをなぜ逃がすのか!」
憤慨するでしょうね。ところが、B社は平気でそういう対応をするのです。
目的はもうおわかりでしょう。B社はこの物件を他社に販売させたくないのです。買主も自社で見つけて、「両手」、つまり双方代理を勝ち取りたい。そして、「3%」ではなく「6%」の仲介料を懐に入れたいのです。
こうして、虚偽の対応をして物件を他に渡さないことを「囲い込み」と呼んでいます。これはもちろん、民法上、宅建業法上の違反です。証拠が見つかれば、罰せられるでしょう。
ところが、業界では大半の会社で、ごく日常的に行われているというのが実情なのです。
「売り先を逃して、売れる時期が遅くなるのは不利益だけど、最終的にB社が買い手を見つけてくれるのなら、まあ許せる範囲じゃないのかな」
そう考える読者もいるかもしれませんね。
しかし、「囲い込み」がもたらす悲劇はそんな甘いものではありません。囲い込みによって、「業者は儲かる、売主は損をする」という、売主にとっては負のスパイラルが始まるからです。
【図表2】