帰国後に見えた「年金生活の現実」
帰国後すぐに生活が破綻したわけではありません。ですが、長期旅行でまとまった資金を使ったことで、「今後の不足を補う余力」が小さくなったのは確かでした。
その後、給湯器の交換や車検など、数十万円単位の支出が続いたといいます。どれも珍しい出費ではありません。むしろ、老後の戸建て暮らしでは十分あり得る範囲です。ただ、旅行前なら「必要経費」と受け止められた支出も、帰国後は家計全体を圧迫するものに見えてきました。
「お金を使ったこと自体より、老後の時間の長さを甘く見ていたんだと思います」
山下さん夫妻は、旅行そのものを失敗だったとは言いません。
「後悔しているかと聞かれたら、していません。あの時間は本当に特別でしたから」
ただ、そのあとに続けた妻の言葉が印象的でした。
「でも、後悔していないことと、不安がないことは別なんですよね」
旅行の写真を見返せば、楽しかった記憶ははっきりよみがえります。一方で、通帳残高を見るたびに、これから先の医療費や介護費用、家の修繕費まで考えてしまうようになったそうです。
老後は長く、夫婦だけで家計と生活を支える時間もまた長いのが現実です。
その後、夫妻は生活費を見直し、外食や旅行を減らしました。夫は再雇用で短時間の仕事を続け、妻も家計簿を細かくつけるようになったといいます。夢をかなえるために使ったお金が悪かったのではなく、その後の暮らしまで含めて設計できていなかった――。二人は、そう考えるようになりました。
「老後資金って、“いくらあるか”より、“使ったあとにどう暮らすか”の方が大事なんですね」
そう語る夫の表情に、旅行前の高揚感はありません。ただ、現実を直視したあとの静かな納得がありました。
長期クルーズは、確かに老後の夢でした。けれど、老後は夢をかなえたところで終わりではありません。帰国後もなお続いていく日常の中で、年金生活の現実は、思った以上に重くのしかかってくるのです。
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■親が「総額3,000万円」を子・孫の口座にこっそり貯金…家族も知らないのに「税務署」には“バレる”ワケ【税理士が解説】
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】
