(※写真はイメージです/PIXTA)

定年後の暮らしを見据え、「都会を離れて地方でゆったり暮らしたい」と考える人は少なくありません。住宅価格が比較的安く、自然も身近な地方移住は、老後の理想の生活として語られることもあります。しかし実際には、交通や医療、生活インフラの問題など、想定していなかった負担が浮き彫りになるケースもあります。老後の住まいは「広さ」や「環境」だけでなく、暮らしを維持できるかどうかが大きな課題になっています。

「静かな暮らし」のはずが…地方移住で見えた老後の現実

また、地方では日常生活のほとんどを車に頼る必要があります。スーパー、病院、銀行、すべてが車移動です。ところが、父は最近膝を痛め、長距離運転が負担になってきていました。

 

こうした問題は、決して珍しいものではありません。

 

国土交通省の調査では、高齢期の住み替えにおいて「医療機関や商業施設へのアクセス」は重要な要素として挙げられています。都市部では徒歩や公共交通で生活できる場所でも、地方では車がなければ生活が難しい地域も少なくありません。

 

さらに、戸建て住宅の場合は建物だけでなく、庭の手入れや修繕などの管理負担もあります。若い頃には気にならなかった作業でも、年齢を重ねると大きな負担になることがあります。

 

息子は帰り際、こう言ったそうです。

 

「無理しないで、もう少し便利な場所に住んだほうがいいんじゃない?」

 

しかし、夫婦にとっては簡単な話ではありませんでした。

 

「せっかく移住したのに、もう戻るのかって……」

 

家を売って移住した以上、簡単に引き返す決断もできなかったといいます。

 

ただ、長男が帰ったあと、夫婦はあらためて今の暮らしを見つめ直しました。庭の手入れ、広い家の掃除、車での買い物。移住当初は魅力に感じていた環境が、少しずつ負担にもなっていたからです。

 

「今はまだ暮らせます。でも5年後、10年後も同じ生活ができるのかは分からないですね」

 

老後の住まいは、理想だけで決められるものではありません。住環境や交通、医療へのアクセス、そして家の維持管理など、さまざまな条件が重なって生活のしやすさが決まります。

 

「家のために暮らすんじゃなくて、暮らしのために家を選ばないといけないんですね」

 

 

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