(※写真はイメージです/PIXTA)

少子高齢化と人口減少が進む日本で「墓」をめぐる環境が大きく変化している。家族や一族が代々受け継ぎ、先祖の供養を通じて家の歴史をつなぐ存在でもあった墓だが、近年では「守る人がいない」「管理できない」といった理由から、「墓じまい(=整理)」するケースが急増している。※本連載は、THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班が担当する。

「墓じまい」は年間16万件超、過去最多に

墓をめぐる変化は統計にもはっきりと表れている。厚生労働省の「衛生行政報告例」によると、2023年度の改葬件数は16万6,886件に達し、過去最多を更新した。

 

改葬とは、墓に納められている遺骨を別の場所へ移すこと。墓じまいは、墓石を撤去して墓地を更地に戻し、遺骨を別の場所へ移す行為を伴うため、改葬件数と完全に一致するわけではないが、この数字から近年墓じまいが増加している状況がうかがえる。

 

墓じまいは墓石の撤去費用や改葬手続きなどが必要で、時間も費用も労力もかかる。それでも墓じまいを選択する家庭が増えているのは、墓を維持すること自体が大きな負担になりつつあるためだ。遺骨の移動先としては、新しい墓に移す改葬のほか、永代供養墓や納骨堂、樹木葬、海洋散骨などさまざまな供養方法が選ばれている。

「墓を継ぐ人がいない」…半数以上が抱える不安

墓をめぐる悩みの実態は、民間調査からも浮かび上がっている。墓じまいに関する情報サイトを運営する「墓じまいパートナーズ」が2026年に実施した「墓じまい実態調査2026」によれば、墓じまいを検討する理由として最も多かったのは「墓が遠方であるため」で約47.8%。次いで、「墓参りが難しくなった」(37.8%)、「管理費が負担」(31.7%)、「子どもに迷惑をかけたくない」(22.2%)といった回答が続いた。この結果からも、墓の維持が家庭にとって現実的な問題になっていることがわかる。

 

特に墓を継ぐ人がいないという現状は、日本の家族構造が大きく変化していることを象徴している。少子化の影響で子どもが1人しかいない家庭も珍しくなく、その1人が両親や祖父母の墓をすべて引き継ぐ可能性もあるからだ。アンケート結果にもあったように、都市部への人口移動によって実家の墓が遠方にある場合、墓参りや管理が物理的に難しくなるケースも少なくないだろう。

 

こうした事情から、子どもに負担を残したくないと考え、生前のうちに墓じまいを検討する人も増えている。

少子化が墓制度を揺るがす

日本社会の構造的な変化の大きな要因となっていると考えられるのが「少子化」だ。厚生労働省の人口動態統計によれば、日本の出生数は減少が続いており、2024年には68万6,061人と過去最低を更新した。合計特殊出生率も1.15まで低下している。

 

子どもの数が減れば墓を守る担い手も減る。かつては複数の子どもの中から家を継ぐ人が墓を守るという仕組みが機能していたが、現在ではその前提自体が崩れつつあると言えるのではないか。墓を引き継ぐ人がいない家庭では、墓が放置され、最終的に無縁墓となるケースも増えている。

 

実際に無縁墓も増加傾向にある。2022〜2023年に総務省行政評価局が実施した実態調査によると、公営墓地を運営する市町村の約58%が親族のいない「無縁墓」の問題を抱えていることが明らかになっている。墓地を管理する765市町村のうち、445市町村が無縁墓の存在を認めており、その数は今後も増加が見込まれる。この状況は、少子化や単身世帯の増加といった現代の家族構造の変化と深く関連していると言えるだろう。

墓は相続税がかからない「祭祀財産」

相続税法第12条では、墓所や霊廟、仏壇、位牌などは「祭祀財産」とされている。原則として相続税の課税対象にはならない。祖先を祭るための施設であり、通常の資産とは性格が異なると考えられているためだ。

 

ただし、すべての墓が自動的に非課税になるわけではない。実際、墓をめぐって国税と争われた裁決事例もある。

 

たとえば、国税不服審判所の2004年3月31日裁決では、相続人が取得した土地を「祖先を祭る墓所であり相続税非課税」と主張したが、審判所はその土地が墓所として利用されている事実が確認できないとして主張を認めなかった。この事例は、祭祀財産として非課税扱いにするには、実際に祖先供養のための施設として使用されていることが必要であることを示している。

 

また、骨董(こっとう)的価値があるなど、投資の対象となるものや商品として所有しているものは、相続税がかかるので注意が必要だろう。社会通念上、著しく高額な「祭祀財産」は非課税財産とはみなされず、税務署から指摘される可能性もある。

 

また、墓をローンで購入し、完済前に亡くなった場合、その残額は債務控除の対象にはならない点にも注意が必要だ。

戦後に広がった「節税墓」とは?

墓は、戦後の高度経済成長期以降、相続税対策として注目されるようになった。1960年代から70年代にかけて、都市部を中心に地価が上昇し、資産を多く持つ家庭では相続税対策が課題となった。そのなかで、非課税財産である墓や仏壇の購入が相続対策として活用されるようになった。

 

この時期には、高額な墓石や大規模な墓所を生前に購入するケースも増えた。石材業界でも、墓を相続対策として紹介する動きが見られ、いわゆる「節税墓」と呼ばれる現象が起きたという。

 

しかし、墓はあくまで祖先供養のための施設であり、税務上は墓としての実体や祭祀目的の合理性が確認されなければ、非課税の対象にはならない。極端に高額な墓を相続直前に購入するなど、明らかに節税目的とみられる場合には、税務上問題になる可能性もあるので注意したい。

墓問題は寺院経営にも波及

墓をめぐる問題は、家庭の問題にとどまらない。日本の墓地の多くは寺院が管理しており、墓を持つ家庭は寺の檀家となるケースが多い。檀家は墓地管理費や法事、葬儀などを通じて寺院を支えてきた。

 

しかし墓じまいが増えることで檀家が減少し、寺院の収入基盤にも影響が出始めているようだ。日本には現在、約7万7,000の寺院があるとされるが、人口減少や檀家離れの影響で、経営が厳しくなっている点は各所で報道されているところだ。地方では住職が不在の寺や、檀家が数十世帯しか残っていない寺も増えているという。

 

こうした状況のなかで、供養の形も変わり始めている。永代供養墓や納骨堂、樹木葬など、墓を継ぐ必要がない供養方法が支持されている。都市部ではビル型の納骨堂も登場し、墓は「家が守るもの」からサービスとして提供されるものへと変化しつつある。

 

墓じまいの増加は、単なる供養方法の変化ではない。人口減少、家族構造の変化、宗教観の変化が重なり、日本の墓制度そのものが大きな転換期を迎えている。まさに日本社会の構造的変化を映し出す、象徴的な現象といえるだろう。

 

 

THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班

 \3月20日(金)-22日(日)限定配信/
 調査官は重加算税をかけたがる 
相続税の「税務調査」の実態と対処法

 

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