削り取られる固定費
破綻は突然やってくる、とよくいわれますが、実際の破綻は、静かに準備されているものです。
値引きしてでも取った案件。売上を維持するために無理な納期や値引きしてでも取った案件が続き、現場は疲弊。利益は削られ、粗利は薄まったものの、売上だけは維持されていました。
しかし月々の固定費は、無慈悲です。六本木の一等地の賃料、内装費の償却、共益費。売上がどうであれ、毎月確実に引き落とされていきます。
経理責任者が「今月末の支払い、残高がギリギリです」と報告したとき、伊藤社長の頭に浮かんだのは資金繰り表ではありませんでした。「このオフィスを失ったら、どうみられるか」という恐怖でした。守るべきものが「会社」から「プライド」に変わった瞬間、組織は崩壊するのです。
幹部の離脱と、銀行の謝絶
週明け、創業期からの支えだった幹部が辞表を提出します。理由は簡潔に「危機よりも体裁を優先する組織にはいられない」。伊藤社長は引き止めもしませんでした。
追い打ちをかけたのは、銀行との月末の面談です。銀行担当者は淡々といいました。
「固定費比率が77%を超えて、経常利益率は3%になっています。また、現預金も月商の1ヵ月分も残っていない状況です。オフィス縮小を含めた再建計画をご提出ください。現状、新規の融資は実行できません」
六本木オフィスの解約に伴う原状回復費用に1,200万円。撤退の噂が広まると、取引先の態度が目にみえて変わります。単価交渉は厳しくなり、新規案件は減少、既存顧客は競合へ流れました。取引先から「御社、大丈夫ですか?」と冗談めかしていわれたときの屈辱は忘れられません。
「俺はずっと、背伸びをやめられなかったんだな……」気がついても時すでに遅し。伊藤社長は自宅を売却して補填に充てましたが、残ったのは、身の丈に合わない借入と、移転先の狭くて古いオフィスでの沈黙だけでした。
東京タワーがみえるオフィスを構えていても…
伊藤社長の転落原因は、野心や判断ミスだけではありません。失敗の要素はいくらでも並べられます。
・六本木の一等地
・見栄と一緒に膨らんだ固定費
・止める人がいなくなる組織
しかし、本質はそこではありません。「失敗したときに実行できる代替案」を持っていなかったこと、これに尽きます。
彼の計画は「うまくいっている前提」で組まれていました。だから想定外が起きた瞬間、判断は感情に引きずられ、見栄に縛られ、撤退できなくなったのです。会社は経営が傾いたときに備えているかどうかが重要になります。
・売上が30%落ちても耐えられる設計がなかった。
・6ヵ月無収入でも固定費を払える資金があるか。
・社員が3割抜けても回る組織か。
・そしてなにより、社長に反対できる人間が隣にいるか。
戦略とは、うまくいったときの物語ではありません。失敗したときに、実際に取れる行動が残っていない計画は、戦略ではなく、ただの願望です。残酷ですが、現実は単純なもの。実行できる戦略こそが、価値を持つ――。それを持たない会社は、どれだけ成功してみえても、東京タワーがみえるオフィスを構えていても、いつか崩れ落ちます。
「まだ大丈夫だ」と思っているいまこそ、自社に「実行できる戦略」があるかを問い直しましょう。
萩原 峻大
東京財託グループ 代表
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