事業アイデア創出フロー
良い事業アイデアは「市場トレンド」と「自社アセット」の両方が重なったものです。市場トレンドは、市場の予測、市場の現象、市場の結果という3つのリサーチを行います。自社アセットは、研究開発できる組織、保有しているデータやシステム、保有している固定資産などです。
まずは市場トレンドをリサーチし、その中で出てきたアイデアの中で、自社アセットが活かせるものに絞り込みます。
事業アイデア創出は、次のような流れで行います。
この流れのなかで最も重要なのはリサーチです。アイデアが出ないとすれば、それはリサーチが不足していて良質なインプットが足りていないことが原因です。ただし、リサーチは際限なくできてしまうため、必要な情報だけを効率よく収集しなくてはなりません。
失敗する事業アイデアは、ありきたりな経験から
良い事業アイデアは良質なインプットから生まれます。逆に失敗しやすい事業アイデアは「ありきたりな原体験(自分の過去の体験)」から生まれます。
個人の原体験から発想することが全て悪いわけではありません。
問題は、「自分だけの体験」だと思っていることが、実は多くの人が体験しているようなありきたりな体験である場合です。
例えば、自分の過去の体験から課題を見つけたとしても、その体験が多くの人が経験する一般的なものであれば、自分より優秀な人たちが、自分の何倍もの時間とお金をかけて事業化を試みているはずです。それでも現時点で事業が見当たらないのであれば、それは需要がなかったり実現不可能な理由があったりと考えるのが妥当です。
逆に、原体験から発想する事業アイデアが「一般的に知られていない事実」で、自分だけが気づいているのであれば良い事業化ができる可能性が高まります。
経営観点での市場選定
企業内での新規事業開発は、ほとんどの場合、経営戦略として参入候補となる市場が決まっています。ただし、成功が難しい市場も紛れている場合があります。
例えば「アップサイクル市場」「個人向けのメンタルヘルス市場」「空き家活用市場」などは、大きな社会的課題として取り組みがいのあるテーマに見えます。しかし、すでに注目市場となってから時間が経過しており、多くのプレイヤーが参入しています。そのため、後発では「解決する価値のない課題しか残っていない」「残った課題が解決できない」といった壁に直面しやすいのです。
どんな市場でも新規事業が立ち上がるわけではありません。現時点において正解がない市場もあるので、あらかじめ複数の市場を選定しておき、可能性がなければ次の市場の探索に進みましょう。
また、魅力的な市場は、全て競合で埋め尽くされていると想定します。もし思いついた事業に近い事業が存在しない場合は、「需要がない」か「提供できない理由がある」と考えるのが自然です。
そのため、新規事業が生まれる余地がある市場は「直近、市場が変化した」市場といえます。
例えば、HRテックの領域は、2015年時点でタレントマネジメントシステムの国内売上が約30億円、導入企業比率は1桁台で非常にニッチな市場でした。しかし、年功序列の見直しとジョブ型雇用の拡大、人的資本開示の義務化、そしてコロナ禍によるテレワーク普及が重なり、スキル可視化ニーズが急伸しました。
その結果、2019年には市場規模が約150億円へ拡大し、2020年には企業の70%超が「導入済み・導入予定・検討中」と回答するまで需要が高まりました。この流れを受けて新たな参入企業が相次ぎ、2024年時点では30社超のプレイヤーが競合するレッドオーシャンに変化しています。
市場の形が変化しても、その隙間は急スピードで埋まるので、直近3年以内のトレンド変化をとらえることが重要です。トレンド変化をとらえるリサーチ方法は「市場の予測」「市場の現象」「市場の結果」の3つがあり、具体的なやり方を後述します。
技術起点での市場選定
技術起点での市場選定は、例えば、企業の研究開発部門で発明された技術があるものの、その技術をどのように商品化すればよいか、誰に売り込めばよいかが定まっていない場合に行います。このような新規事業開発の取り組みは「プロダクトアウト」と呼ばれます。
プロダクトアウトでの新規事業開発は「新しい技術」で、「新しい市場を狙う」と、二重でリスクを抱えることになり、事業化が難しくなります。新しい市場を狙うよりは、すでにある市場で、既存の技術を代替するアプローチで考えるほうが成功率は高まります。
ここでは、その具体的な手順を4つのステップに分けて紹介します。
特性の洗い出し
まずは、対象とする技術がどのような特性を持っているのかを洗い出します。一般的に流通している技術と比べて何が違うのか、どのような強みがあるのかを整理します。
特性の洗い出しは、AIを使って行うこともできます。
価値の抽象化と代替手段の洗い出し
同じような価値を提供している代替手段を洗い出します。いきなり代替手段を洗い出そうとしても思考の漏れが起きやすいので、まずは対象技術がどのような価値を提供しているのかを抽象化します。その後、似た価値を提供している代替手段を洗い出します。ここでもAIが役立ちます。
例えば、「室温常圧で“思いどおりの形状”に再構成できる粒子状のプログラムできる素材(プログラマブルマター)」という技術を持っている場合、下記のプロンプトを使って価値の抽象化と代替手段の洗い出しをすると次のようなアウトプットが出てきます。
代替手段に比べて優位性がある利用シーンの洗い出し
代替手段を洗い出したら、その代替手段が現在どのようなシーンで使われているのかを洗い出します。洗い出した利用シーンの中で、本技術に優位性があるシーンが何か評価します。
例えば、先ほどの「プログラマブルマター」において、代替手段と比較した優位性を洗い出すと次のようなアウトプットになります。
技術をどのように使うと、既存市場をリプレイスできるかのヒントが見えたかと思います。ここからどのように事業アイデアを整理するかは、「事業アイデアのまとめ方」の項目にて解説します。
阿部 拓貴
CINCA代表取締役 社長








