スタートアップとベンチャーでは「リスクの箇所」が異なる
フィットジャーニーは、リスク検証順のセオリーであり、事業推進の絶対的な順番を表すものではありません。重要なのは、事業の最大リスクから優先的に検証することですので、プロダクトの特性や市場の環境などによっては、フィットジャーニーが示す順番どおりにならない場合もあります。
例えば、スタートアップとベンチャー(もしくはスモールビジネス)的な新規事業開発とでは最大リスクの箇所が異なるので、リスクの検証順が変わります。スタートアップとベンチャーの定義は次のとおりです。
スタートアップは、多くの場合、「顧客が実在するのか」「課題は今後増えていくのか」が最大リスクです。つまりリーンキャンバスでは「顧客」「課題」のマスです。
そのため、スタートアップの事業アイデアは、トレンドが来ている市場を狙う必要があります。顧客も法規制も技術も何も変わる見込みがない市場を狙うことは成功確度を下げます。
例えば、2016年4月の電力小売全面自由化では、消費者が初めて電力会社を自由に選べるようになりました。その際に、事前に準備を進めていた電力比較サイトのENECHANGEは、解禁初日に十数社のプランを掲載し、需要急増を取り込みながら取扱件数国内トップクラスへと急成長しました。これは電力小売全面自由化という変化がなければ、生まれなかった事業です。
一方のベンチャーは、すでに存在する市場の隙間を狙って参入し、徐々に周りの領域に広げていきます。そのため、多くの場合、既存の競合に対して「優位性があるのか」がリスクになります。リーンキャンバスでは「圧倒的な優位性」のマスです。
例えば、大手が占める人材紹介市場で「スタートアップ特化」という隙間を見つけて参入した企業のように、ニッチから始めて拡大する戦略がこれにあたります。
これらを踏まえて、フィットジャーニーをセオリーとしつつも、一番重要なリスクを優先して検証していくことがポイントです。
事業アイデアに固執しない、ピボットは早めに
初期にひらめいた事業アイデアが、一切の修正なく0→1を突破できる確率は、私たちの経験では1%もありません。新規事業で執着すべき対象は「事業アイデア」ではなく「成功」です。そのためには仮説を素早く検証し、検証結果が否定的なら迷わず方向転換(ピボット)する姿勢が必要です。
私たちが支援した例でも、当初は「子ども向けニュース解説アプリ」を構想していましたが、市場規模が小さいことが分かり、まず「子ども向け学習マンガアプリ」へ、さらに「社会人向け学習マンガサービス」へとピボットしました。
事業検証が進むほど関係者や、投資額が増えてピボットしづらくなります。そのためピボットは早期に繰り返すことが重要です。少人数でフットワーク軽く進められる段階なら、事業内容を容易に変更できます。この身軽さは新規事業開発では大きな優位性なのです。
市場選定とタイミングでほとんど決まる
新規事業開発の初期段階では、どんな事業を行うかを自由に選択できます。これは非常に大きな優位性です。
新規事業開発の成功は、そのほとんどが市場選定とタイミングで決まります。私自身も前職で、25歳の頃に創業メンバーとして参加したスタートアップが4年半で上場することができました。これは努力もありますが、市場選定とタイミングの影響が大きいです。
そのスタートアップは、当時急激に市場が伸びていたスマホゲーム市場で、攻略情報メディアが祖業でした。そこからゲーム広告の市場に事業を展開し順調に成長しました。
ここからいえるのは、市場選定とタイミングを焦らないほうがいいということです。市場選定とタイミングの意思決定は事業の成功を左右する大部分を占めていて不可逆です。事業が成長するか、資金調達しやすいか、採用しやすいかなども、ほとんどこの段階で決まります。私の例では、前職が働き手に人気のあるゲーム領域の事業だったため、異業種と比べて採用に苦労しませんでした。焦らず複数の事業アイデアを検証し、成功確度が最も高い事業アイデアを選びましょう。
本書『新規事業開発を成功に導く 超実践 0→1攻略ガイド』では、以上の方針を前提に具体的な事業検証手順を解説します。
阿部 拓貴
CINCA代表取締役 社長

