認知症の父のキャッシュカード使用がトラブルのもとに
「父のキャッシュカードを預かっているし、暗証番号も知っている。だから、いざというときの介護費用や実家の維持費は何とかなる」
都内に住む会社員のAさん(仮名・55歳)は、実家で一人暮らしをしている父・Bさん(仮名・82歳)が軽度の認知症と診断されたのを機に、月額25万円の介護付き有料老人ホームへ入居してもらう手配を進めていました。
入居一時金や当面の生活費、引っ越し費用などで、急きょ数百万円の現金が必要になりましたが、Aさん自身はそこまで焦っていませんでした。なぜなら、以前からBさんのキャッシュカードを預かっていて、暗証番号も共有されていたからです。
「父の口座には十分な貯蓄がある。ここから下ろせばいい」
しかし、ATMでの引き出しにはシステム上の制限がありました。昨今の特殊詐欺対策により、高齢のBさんの口座は、ATMでの1日あたりの引き出し限度額が20万円程度に自動的に制限されていたのです。
窓口に行けば一括で引き出せますが、「親が認知症だと銀行に知られたら面倒なことになるかもしれない」と警戒したAさんは、仕事の合間を縫って職場近くや自宅近くのATMに通い、「毎日20万円ずつ」を引き出す作戦に出たのです。
ATM不正利用の疑いで「口座凍結」を招く
数日後、実家の固定電話に銀行から確認の連絡が入りました。たまたま実家を訪れて電話をとったAさんに、銀行員はこう告げました。
「お父様の口座から、毎日20万円の不審な引き出しが続いておりまして……ご本人様でしょうか?」
詐欺などを疑われていると感じたAさんは、身の潔白を証明しようと事情を正直に説明しました。
「実は父が認知症になりまして、施設に入るための費用を長男の私が代わりに引き出しているんです。カードも預かっていますし、決して怪しいものではありません」
いずれ限界を迎える運命にあった「カードと暗証番号の共有」というその場しのぎの方法は、ここで完全に破綻することになります。
本人の意思確認ができない状態で、第三者がカードを利用しているという事実を把握した以上、金融機関はルールに従って動かざるを得ません。顧客の財産保護と不正引き出し防止の観点から、Bさんの口座の出金は停止されてしまいました。
明日の介護費用を引き出す術を失い、口座は事実上の「凍結」状態に陥ってしまったのです。
