父の遺志を継いだ「新病院の危機」。リハビリ拡充が招いた赤字から、現場主導で脱却するまで

父の遺志を継いだ「新病院の危機」。リハビリ拡充が招いた赤字から、現場主導で脱却するまで

長年築き上げてきた地域との信頼関係、そして父から受け継いだ病院建設という悲願。順風満帆に見えた慢性期病院の立ち上げでしたが、設備投資や診療報酬改定の波に飲まれ、予期せぬ赤字に直面することに……。それは、多くの医療機関が抱える「社会的入院」という構造的な課題の表れでもありました。本記事では、熊谷安夫氏の著書『病院経営 百年の約束 地域に必要とされ続けるために 病院が守るべき大切なこと』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋・再編集して、財務体制の抜本的改革から現場主導の入退院支援まで、慢性期病院が持続可能な経営を実現するための「グランドデザイン」の全貌を解説します。

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地域との関係性がもたらした新病院建設への経緯

私が院長を務める慢性期病院は、2003年11月に開院しました。


建設に向けた動きが本格化したのは、少子高齢化の進行を受け、急性期病院を補完する慢性期病院の必要性が経営幹部の間で頻繁に議論されるようになった時期からです。それとは別に、県医師会から「県外の病院ではなく、地元に根ざした医療法人に療養型病院をつくってほしい」との打診を受けたことも、計画を後押しする要因となりました。父が果たせなかった病院建設の夢を私たち兄弟が受け継いでいたこととこれらの契機が重なり、時が満ちたのです。
 

資金調達については、県内の地方銀行をはじめとする複数の金融機関から支援を受けました。なかでも、実質的な建設資金の多くは、厚生労働省およびこども家庭庁が所管する福祉医療機構(WAM)からの融資によって賄われました。


振り返ってみれば、これまで地域との良好な関係を築いてこられたからこそ、土地の確保も資金調達もスムーズに進み、病院建設を実現できたのだと実感しています。資金調達をはじめとする実務面については、理事長や院長の職責を超える部分もあると考え、当時の事務長に一任しました。行政や金融機関との折衝などは、やはり実務に精通した担当者の手腕が重要だと感じています。
 

開院当初の慢性期病院は、大学病院を退職し就任した初代院長、医師1人、病床数は60床からのスタートでした。血液透析の受け入れも同時に開始し、院長・事務長・看護部長を中心に、療養型病院としての診療体制の構築を進めました。翌年には常勤医1人が加わり病床を倍増。透析ベッド15床、リハビリテーション療法士3人を擁する体制が整い、少しずつ療養型慢性期病院としての機能が確立されていきました。この常勤医は、その後、副院長に就任し病院の医療と経営の両面で屋台骨を支えています。

 

なお、医師のカルテ、看護記録、指示簿などは紙ベースで運用されていましたが、レセプト請求には日本医師会が提供するLinuxベースの「ORCA」を採用。院内のネットワークシステムはWindowsOS上の「FileMaker」を使って独自に構築していました。入退院患者のリストを基礎として、入院サマリー、紹介状、介護保険意見書、栄養管理、リハビリ記録などの情報を、院内の各所から作成・閲覧できる仕組みになっており、2022年11月に電子カルテが導入されるまで、長く活用されてきました。
 

慢性期病院における新経営管理システムのグランドデザイン

私たちが慢性期病院を立ち上げるにあたり、当初は急性期病院の管理システムをそのまま移行しようと考えていました。しかし、慢性期病院の事務長に就任した四番目の弟が精査した結果、単純に流用できるものではないことが明らかになりました。例えば財務面では、急性期病院では毎月の収入は把握できるものの、当時のシステムでは、損益計算書を月次で出すことができず、年次決算を経て初めて細かな動きが見えてくる状況だったのです。

 

このような仕組みを新病院にそのまま適用するのは得策ではないと判断し、病院の特性や実情に応じた新たなシステムを構築しました。目指したのは、毎月の損益状況をリアルタイムで把握できるようにすることです。これを契機に、従来の現金主義による会計処理から、発生主義に基づく経理システムへと移行しました。

 

また、新規入院患者数や延べ入院患者数なども月次で可視化できるような仕組みを連動させました。急性期と慢性期では病院形態が異なるため、すぐに完全に統一することはできませんでしたが、それぞれの実態を数値化し、的確に把握できる体制づくりに力を注ぎました。数値化を実現するには、病院管理におけるグランドデザインの策定が欠かせません。

 

このグランドデザインをもとに、急性期病院の優れた点は取り入れ、改善が必要な点は見直す方針で全面的な再検討を進めました。その一環として、急性期病院においても発生主義の会計処理を導入し、経理制度を統一することにしたのです。成果はすぐに表れ、法人全体の経営会議では、毎月双方の病院が損益報告を行うことが定着しました。

 

以前は、年2回の賞与支給月に赤字が出ることが当たり前で、その赤字を他月の黒字で相殺する場当たり的な資金繰りが常でしたが、この財務体制の再編により、資金の流れを平準化できるようになりました。こうした取り組みは、ほかの医療機関でも当然行われていることかもしれませんが、私たちにとっては財務システムの統一が経営効率化に大きな効果をもたらしました。

慢性期病院の発展と試練

慢性期病院は現副院長を中心に、広いスペースを活用した透析治療に力をいた結果、2008年度には透析関連手術が40件を超えました。2011年度には透析ベッドを30床に倍増するとともに、腹膜透析の新規受け入れを中止し、血液透析診療に特化する方針へと転換しています。その後、透析患者数は最大となり大きな収益部門となりました。


さらなる経営基盤の強化を目的に、2013年度には透析専門医を採用し、常勤医を3人体制としました。それに伴い現副院長にはリハビリ部門に移ってもらい、リハビリテーション室をリハビリテーションセンターとして拡充しました。療養病床のうち28床を「回復期リハビリテーション病棟入院料3」へ転換し、療養病床は92床としました。

 

このように、施設設備の導入や院内構成の見直しを進めたにもかかわらず、リハビリテーションセンターの拡充に伴う設備投資などの影響により、2014年度は赤字を余儀なくされました。その後、一時は軌道に乗ったかに見えた拡充策でしたが、診療報酬改定による影響を受け、結果的に赤字体質からの脱却には至りませんでした。


 

こうした経営状況にいち早く反応したのが現副院長をはじめとする、日々の現場に密接に関わる看護部門およびリハビリ部門でした。「業務刷新会議」を立ち上げ、のちに「経営改革委員会」に名称を変更して、その対策を検討しました。


入院時には「医療区分2・3」に該当していた患者も、リハビリによってADLが向上し、「区分1」に改善する例が少なくありません。しかしそうした退院すべき患者が長期に入院を継続するという「社会的入院」の問題が常態化していました。


そのため医療連携室を事務部から看護部所属とし、4人に増員しました。財務の視点からは入院後7日以内を目安に退院支援を開始する仕組みを導入。面談前にはカンファレンスを実施し、退院に向けた方針を早期に決定する。学習と成長の視点からは師長向け講習会を開催し、リーダー層の意識を統一する。さらに、一般看護師やリハビリスタッフを対象とした入退院支援に関する講習会を実施する。業務プロセスの視点からは入退院支援体制の確立とともに、ベッドコントロールシステムの構築、管理リストの作成、リンクナースの権限を強化する、などの対策をとりました。

 

こうして、慢性期病院で社会的入院問題に対する包括的な対応が本格化し、現場主導による改善策が具体化していったのです。

 

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病院経営 百年の約束 地域に必要とされ続けるために病院が守るべき大切なこと

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熊谷 安夫

幻冬舎メディアコンサルティング

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