病院経営において、医療事故への対応は避けて通れない最重要課題の一つです。万が一の事態が起きた際、信頼の喪失や風評被害、職員の離職といった連鎖は、時に病院存続を揺るがすほどの打撃を与えます。本記事では、熊谷安夫氏の著書『病院経営 百年の約束 地域に必要とされ続けるために 病院が守るべき大切なこと』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋・再編集して、著者が自ら経験した2件の重大事故を振り返りながら、「人はミスを犯す」という前提に立った組織の安全管理と、経営者が持つべき覚悟について解説します。

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医療事故は病院存続の危機に直結する

病院の運営を語るうえで、医療事故への対応は避けて通れない重要なテーマです。2014年に、医療事故調査制度が盛り込まれた改正医療法が成立しました。調査報告を収集・分析する日本医療安全調査機構が毎年発表している年報によれば、2015年10月の制度開始以来、医療事故発生報告がゼロだった年はありません。医療事故が直ちに業務停止命令や病院の閉鎖を意味するわけではありませんが、経営に重大な影響を及ぼすことは明らかです。

 

実際、医療事故を契機に経営が悪化し、結果として病院が閉鎖に追い込まれた例も存在します。損害賠償金の支払いに加え、患者や地域からの信頼喪失、職員の離職、風評被害の拡大など、経営基盤に大きな打撃を受けるのです。こうしたリスクを回避するため、講習会の開催や医療安全対策室の設置に積極的に取り組む医療機関が増加しています。

 

医療行為そのものと深く結びついています。そのため、医療事故に対する姿勢としては「絶対に起こしてはならない」とする厳格な立場と、「人はミスを犯すことがあるという前提に立ち、原因の解明と情報共有を通じて再発防止に努めるべき」とする現実的な立場があります。現在の医療安全分野では後者の考え方が主流であり、「人間は過ちを犯す存在である」という認識のもとに安全対策が構築されています。

 

医療事故の範囲は、「ヒヤリ・ハット」のような軽微な事例から、深刻な医療過誤に至るものまで多岐にわたります。原因も結果もさまざまであり、万が一「事故」が「事件」に発展すれば、医療機関や医療者は民事・行政・刑事の三重の責任を問われることになります。

 

私がこのテーマに強い関心を持つ理由は、私自身が理事長を務める医療法人で、過去に二度の重大な医療事故を経験したからです。いずれもすでに解決には至っていますが、当時は病院の存続すら危ぶまれる深刻な局面を迎えました。

 

●医療事故1:階段転落事故

最初の事故は、急性期病院で発生しました。透析のため社会的入院をしていた全盲の患者が、長期療養のなかでリハビリによりある程度の移動が可能になった矢先、車椅子ごと階段から転落したのです。
 

患者は事故直後、近隣の大学病院へ緊急搬送されましたが、残念ながら1週間後に亡くなりました。転落の経緯については目撃者がおらず、患者本人が誤って転落したのか、ほかの患者との接触によるものかは不明のままでした。

 

事故後、当該病棟の看護師長は管理責任を問われ、約10年間、警察や裁判所に出向く日々が続きました。途中、彼女は慢性期病院の看護部長へと異動しましたが、事故の対応に向き合い続けました。

 

最終的にこの事故は刑事事件とは認定されず、業務上過失致死にも至りませんでした。病院としては、事故発生からその後の経緯を患者の家族にすべて丁寧に説明し、同時に看護師長の心身のケアにも配慮しました。
 

彼女はこの経験を、看護学生への教材として語り継ぎ、責任を持って行動することの重みを後進に伝える貴重な教訓としています。病院としても、事故を契機に階段上部へ柵を設置するなど、安全対策の強化を実施しました。

医療事故2:カリウム製剤静脈注射事故

2件目は、同じく急性期病院で発生した事故です。高等看護学校に通っていた准看護師が、通常は希釈して点滴すべきカリウム製剤を、誤って原液のまま静脈注射してしまったのです。カリウム製剤を静脈注射することが厳禁であるのは、医療者であれば当然の知識です。
 

その場に呼ばれた院長(私の弟)が直ちに蘇生処置を試みましたが、高齢だった患者は帰らぬ人となりました。家族には前回と同様、事故の経緯を包み隠さず丁寧に説明しました。

 

説明の場には、弟が准看護師本人を同席させました。説明に先立ち、弟は彼女にこう伝えました。

 

「医療者として真摯に反省し、自分の言葉で家族に謝罪するのであれば全責任は私が負う。しかし、気持ちが中途半端ならば助けることはできない」
 

准看護師は深く頭を下げ、過ちを認めて謝罪しました。患者の家族はその誠意を受け止め、別れ際には弟に「彼女が無事に高等看護学校を卒業できるよう取り計らってほしい」とまで告げて帰っていきました。

 

この事故をきっかけに、病院では安全管理部を立ち上げ、職員全員で手順や薬剤の取り扱いに関するルールを見直しました。以後、再発防止のための体制が大幅に強化されることになりました。

 

この事故は、看護協会主催の外部研修でもたびたび事例として取り上げられ、看護協会の幹部が私たちの急性期病院を訪れて全職員に向けて研修を行ってくれました。このような外部の関与もまた、病院全体の医療安全体制の整備を加速させる大きな力となりました。

 

この2件の医療事故は、内容も発生の経緯も異なりますが、いずれも病院の存続に直結しかねない重大な問題でした。だからこそ、私たちはこの経験を通じて学び続けています。そして、二度と同じような事故を繰り返さないよう、安全管理体制の強化を組織の最優先課題として今後も取り組み続けていきます。

 

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病院経営 百年の約束 地域に必要とされ続けるために病院が守るべき大切なこと

病院経営 百年の約束 地域に必要とされ続けるために病院が守るべき大切なこと

熊谷 安夫

幻冬舎メディアコンサルティング

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