「老後って長いな…」平穏という“何もない毎日”
都内近郊の住宅街に暮らす、佐藤一郎さん(68歳・仮名)は、妻の幸恵さん(68歳・仮名)と2人暮らし。現役時代の蓄え1,800万円と月22万円の年金。大きな病気もなく、平穏そのものの老後でした。
しかし、その実態は、ただ時間が過ぎるだけの日々。朝起きて、昨日と同じワイドショーを眺め、人が少ない時間を狙ってスーパーへ行く。会話といえば「明日のゴミ何だっけ?」「不燃ごみよ」といった事務的なものばかり。曜日感覚はすっかりなくなり、平日も休日も祝日も関係ありません。
この暮らしが下手したらあと20年以上続く。社会とは切り離されたような世界で、長い老後を生きる。それを思うと怖いような、諦めのような気持ちがあったと、一郎さんはいいます。
「それでも、いまさらアルバイトをしようという気持ちも起きなかった。なんとなく毎日を過ごしていましたね」
そんな二人の静寂を壊したのは、ある夜、次女の圭子さん(42歳)からかかってきた一本の電話でした。
「お父さん、ごめん……。もう、この家では暮らせない。そっちに帰ってもいいかな」
年収1,500万円超、高収入の夫と結婚し、タワーマンションで幸せに暮らしていたはずの圭子さん。しかし、夫の度重なる浮気で、離婚協議へ。5歳になる息子(孫)を連れ、嵐のように実家へと舞い戻ってきたのです。
娘の出戻りに静かな生活が一変
「最初はパニックでしたよ。自分たちのペースがすべて壊されたんですから」
そう語る一郎さんですが、その眼差しには以前にはなかった光が戻っています。それは、娘と孫が戻ってきてからの生活が、プラスに働いているからにほかなりません。
世に言う「子連れ出戻り」といえば、親の年金や資産を食いつぶす悲劇が定番ですが、佐藤家の場合は違いました。 圭子さんは企業の管理職で、年収は750万円。さらに離婚協議中の夫からは、月15万円の婚姻費用が振り込まれています。
「お世話になるんだから」と、圭子さんは夫から受け取っている15万円をそのまま実家へ(親子間の生活費として通常必要と認められる範囲のお金のため、贈与税なし)。食費や光熱費の増加分を超える補填です。
「お父さんとお母さんに、お金の負担はかけない」というのは、同居当初から娘が強く主張していました。経済面に不安がないことは、老夫婦の心に孫を可愛がる余裕を生んだといえます。

